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今回初めてボキューズ・ドールを観戦して、感じることは多くあった。まず、5時間半もの時間を集中し続けながら、料理を仕上げていく、料理人の真摯な姿勢に心を打たれたこと。同時に、ボキューズ・ドールという、一分のすきもない完璧な仕組みを造り上げる、フラン料理界(フランス国家)の底力をまざまざと見せつけられたこと。敢えての言い方をさせてもらえば、かつての列強諸国は、プラットフォーム作りが実に巧みであるということか。

 フランス国家において、料理が外貨獲得のための重要な産業であり、文化であると思えば、MOFという制度を作ることで、料理人の社会的地位を上げ、同時に、ミシュランという制度を利用し、世界中にその権威をいきわたらせる。そうした、充分すぎるほどの下地の上に、ボキューズ・ドールという、料理のワールドカップという戦いの場を設けた。一度でも入賞すれば、ボキューズ・ドールファミリーとして、試食審査員として参加したり、アカデミーに呼ばれたり、必ず何かしらの形で関わり続けていく。こうして入賞者には、料理人としての成功を約束する。そんなシステムを作り出せるということの、フランスという国の力や考え方や実行力に驚嘆した。

調理中の日本チーム。
 他方、印象に残ったことは、今回参加している21か国の中でも、国や企業からの支援の厚みがまったく異なるということだ。当然のことながら、支援と順位とは密接に関係してくる。残念ながら、日本はほぼ、個人的な出費による参加だ。戸枝氏も半年以上自身の店を閉めての参加だった。どう考えても不利ではあるが、現状ではいたしかたない。日本国にも、料理や外食産業が、日本において大事な文化的コンテンツであるということを改めて自覚してもらえればと、願うばかりである。その上で、ボキューズ・ドールの産業的、文化的重要性、世界に与える影響力などを理解し、支援をいとわないという構造ができてきたら、日本の結果ももちろん変わってくるであろうし、その先に続く、日本のフランス料理界の未来も変わってくるに違いない。初の観戦者として、一料理ジャーナリストとして、そうした思いが大変に強く胸に残った。
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