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食語の心 第90回
作家 柏井壽
ジャパニーズスタイル
世界中に蔓延している新型コロナウイルスという疫病で、もっとも大きな打撃を受けているのは飲食業だろう。もちろん他の業種も、大なり小なり影響を受けているし、なにより医療従事者の苦闘ぶりには首こうべを垂れるしかないのではあるが。
 日々刻々と事態が変わり、悲鳴をあげているのが外食産業であることは自他共に認めるところだ。営業時間の短縮、感染予防対策、座席数の削減、にとどまることなく、ときには営業自粛を迫られることも稀ではない。営みを途切れさせるわけにはいかない。どんな手法で感染のリスクを抑えるか、飲食業に従事する人々は頭を悩ませ続けている。
 聞いたところによると、海外の飲食店に比べて、日本では飲食店で感染が広がるケースは少ないそうで、その要因として、日本独特の飲食店形式が挙げられるようだ。ジャパニーズタイルとも呼ぶべき、独特の形は、結果として感染拡大防止に寄与している。そのいくつかを検証してみよう。
まず第一に挙げたいのは、カウンター席というスタイルだ。海外旅行をして、レストランで食事をするとき、カウンター席を持つ店に出合ったことは、ほとんどと言っていいほどない。お酒を飲むためだけのバーや、ファストフード店での立ち食いを除けば、海外のレストランで、カウンター席に腰かけて、ゆっくりと食事を楽しんだという記憶がない。
一方で、国内の飲食店で食事をするときは、かなりの割合でカウンター席で楽しむことが多い。とりわ
け夜にお酒を飲みながら、となると、カウンター席がほとんどだ。もちろん大人数だとテーブル席になるが、4人以下だとたいていカウンター席を選ぶ。つまりは横並びで食事をするわけだ。向かい合って食事をするより、横並びのほうが、圧倒的に感染のリスクは低くなることは、コンピューター分析で明らかにされている。横並び席というだけでも、感染予防に寄与するのだが、さらにその席のあいだにアクリルボードを設置する飲食店も増えてきた。ぼくが行きつけにしている店は、ほとんどがカウンター席のあいだに、この透明のアクリルボードを設置している。万全に近い態勢だ。
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