万事強め、がコツだとも教わった。
火の通し加減、塩加減、甘み、香り付け、酸味などなど、いくらか強めにすることで、冷めていてもおいしく食べられるようになるのだという。
かと言って、過ぎたるはなお及ばざるがごとし。その案配は季節によっても異なり、微妙なさじ加減は数値化できるものではなく、長年の経験による勘に頼るしかないということだった。
一朝一夕にして、仕出し料理は作れるものではないのだ。
つい先ごろまで一見客を断り、持ち帰り料理などしたことがない料理人が、いきなり手軽な弁当を売り出すには、万全の注意が必要だということを忘れてはならない。
仕出しを手掛けるのであれば、それなりの覚悟が必要なのだが、一時しのぎの踏み台程度にしか考えていない人たちは、決して少なくないようである。
新しい試みを始めるのであれば、不退転の決意を持って臨んでほしい。
近年しばしば話題に上がるものに、同じ関西ながら、京都と大阪では気風が異なることがある。
何かにつけ比較されることが多いのだが、新しいことを試みるに当たっても、助言する側の反応は正反対となることが少なくない。
師匠筋に相談したとして、大阪ではよほどの無理がなければ、
「やってみなはれ」
という答えが返ってくる。
これに対して京都では、
「やめときなはれ」
となることがほとんどだ。
長い歴史を持つ京都の老舗料亭がラーメンを作って宅配する。あるいは星付きのフレンチレストランが、シェフの手作り餃子を売り出す。
どちらも売れ行きは上々らしく、同慶の至りだが、果たして長く続けていく覚悟はできているのか。大いに気になるところだ。
あり得ないことだが、もしも僕が相談を受けていたなら、きっと二軒とも、
「やめときなはれ」
と言っただろう。
火の通し加減、塩加減、甘み、香り付け、酸味などなど、いくらか強めにすることで、冷めていてもおいしく食べられるようになるのだという。
かと言って、過ぎたるはなお及ばざるがごとし。その案配は季節によっても異なり、微妙なさじ加減は数値化できるものではなく、長年の経験による勘に頼るしかないということだった。
一朝一夕にして、仕出し料理は作れるものではないのだ。
つい先ごろまで一見客を断り、持ち帰り料理などしたことがない料理人が、いきなり手軽な弁当を売り出すには、万全の注意が必要だということを忘れてはならない。
仕出しを手掛けるのであれば、それなりの覚悟が必要なのだが、一時しのぎの踏み台程度にしか考えていない人たちは、決して少なくないようである。
新しい試みを始めるのであれば、不退転の決意を持って臨んでほしい。
近年しばしば話題に上がるものに、同じ関西ながら、京都と大阪では気風が異なることがある。
何かにつけ比較されることが多いのだが、新しいことを試みるに当たっても、助言する側の反応は正反対となることが少なくない。
師匠筋に相談したとして、大阪ではよほどの無理がなければ、
「やってみなはれ」
という答えが返ってくる。
これに対して京都では、
「やめときなはれ」
となることがほとんどだ。
長い歴史を持つ京都の老舗料亭がラーメンを作って宅配する。あるいは星付きのフレンチレストランが、シェフの手作り餃子を売り出す。
どちらも売れ行きは上々らしく、同慶の至りだが、果たして長く続けていく覚悟はできているのか。大いに気になるところだ。
あり得ないことだが、もしも僕が相談を受けていたなら、きっと二軒とも、
「やめときなはれ」
と言っただろう。

かしわい・ひさし
1952年京都市生まれ。京都市北区で歯科医院を開業する傍ら、京都関連の本や旅行エッセイなどを数多く執筆。2008年に柏木圭一郎の名で作家デビュー。京都を舞台にしたミステリー『名探偵・星井裕の事件簿』シリーズ(双葉文庫)はテレビドラマにもなり好評刊行中。『京都紫野 菓匠の殺人』(小学館文庫)、『おひとり京都の愉しみ』(光文社新書)など著書多数。
1952年京都市生まれ。京都市北区で歯科医院を開業する傍ら、京都関連の本や旅行エッセイなどを数多く執筆。2008年に柏木圭一郎の名で作家デビュー。京都を舞台にしたミステリー『名探偵・星井裕の事件簿』シリーズ(双葉文庫)はテレビドラマにもなり好評刊行中。『京都紫野 菓匠の殺人』(小学館文庫)、『おひとり京都の愉しみ』(光文社新書)など著書多数。