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たとえば牛肉。長く王座に君臨してきた〈霜降り〉は今や敬遠の対象にすらなってしまっていて、代わりに王座に就きそうなのは〈赤身〉だ。ずっと〈やわらか~い〉が最上級の賛辞だったが、今では〈噛応えがある〉に押され気味である。
 しかしながら、これとていつなんどき逆転するかもしれないので、つまりは、作られたいっときのブームなのだ。
数値化、記号化はともに、分かりやすさの象徴と言える。少し前の流行り言葉で言えば〈見える化〉の一端ととらえれば分かりやすい。
 本来、人の味覚や嗜好は千差万別、人それぞれ異なるものなのだが、スタンダードを設定することで、安心して食を愉しめる、という人が増えてきたのだろう。
 人とおなじことをしていないと不安だ、というのは、食べる側だけでなく、料理を作る側もおなじなようで、料理人もまた流行に踊らされているケースは少なくない。
 京都の割かっ烹ぽう店がいい例だが、おまかせコース一本鎗の店が増える一方なのも、その一例。そして、その価格がじわりじわりと上がっていくのもほぼ横並び―みんなで上げればこわくない―ということだろうか。
 店の造りも、置いてあるお酒も、おまかせ料理そのものも、みんなよく似ている。
 牛肉を使った料理をコースのあいだに挟むのも、土鍋を使った炊き込みごはんを〆に出すのも今の流行りなのだ。
 炊き上がったご飯を、土鍋ごと客に見せるのもお約束。
 どんなご馳走を出しても、最後は炊き立ての白ご飯に限る。それも椹のお櫃に移し、しばらく蒸らしてから客に供する。かつてはそんな割烹があったのだが、今ではめったに見かけない。
 数値化、記号化、見える化、パフォーマンス。分かりやすくなればなるほど、料理がつまらなくなる。
かしわい・ひさし
1952年京都市生まれ。大阪歯科大学卒業後、京都市北区に歯科医院を開業。生粋の京都人であり、かつ食通でもあることから京都案内本を多数執筆。テレビ番組や雑誌の京都特集でも監修を務める。小説『鴨川食堂』(小学館)はNHKでテレビドラマ化され続編も好評刊行中。
『グルメぎらい』(光文社新書)、『京都の路地裏』(幻冬舎新書)、『憂食論 歪みきった日本の食を斬る!(』講談社)など著書多数
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