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いつの時代も真っ先に反旗を翻すのは、先頭を走っていた旗手だ。過剰なまでのグルメブームを煽ってきた、とある週刊誌からインタビュー依頼があった。
 きっかけは、予約の取れない寿す司し屋だったようだ。
 おそらく1年先くらいなら、称賛の言葉をもって、グラビア記事にしたに違いない。しかしその寿司屋は想定外だった。なんと6年先の予約しかできないというのだ。
 ここに至って、ようやく編集者もこの事態が異常だということに気付いたのだろう。編集方針を転換して、今のグルメブームに疑問を呈する記事に、急遽変更されたかどうかは、定かでないのだが。
朝出かけるときに、今夜何を食べたいかと聞かれて即答できる人がいるだろうか。昼飯を食ってから連絡するよ、というのが常識的な答えだ。
ひと月先、3カ月先に何を食べたいかなど、分かるはずもないのに、どうして店の予約などできようかという発言をし、いくらかは端折られたが、僕の意は十分に伝わる形で、コメントを掲載してもらった。
連載77回を数えるこのコラムでも、繰り返し問題提起してきた。
 本来あるべき〈食〉の姿から、どんどんかけ離れていき、いつの間にか〈食〉がマニアックな分野になり、それに多くが追随するに至っている。
 昔から食のブームというものは再三繰り返されてきたが、それらの多くは健康に結びつくものだった。紅茶キノコといったアヤシゲなものから、スプラウトや酢大豆まで、健康増進やダイエットに結び付けてのブームが起こった。
 スーパーマーケットの食品売り場からあっという間に姿を消し、闇取引されるまでに至ると、ブームは過ぎ去り、すぐに忘れられてしまう。
 あとから思えば笑い話だが、それと今のグルメブームは極めてよく似たプロセスである。
 かつてはピンポイントだった食品が、食全体に広がったと言えるだろう。みんながこぞって、おなじ食、店を追い求めるという点で、今のいびつなグルメブームはばかげた流行なのだ。では、その源はどこにあるのか。次回はそれを検証してみたい。

柏井壽(かしわい・ひさし)
1952年京都市生まれ。京都市北区で歯科医院を開業する傍ら、京都関連の本や旅行エッセイなどを数多く執筆。2008年に柏木圭一郎の名で作家デビュー。京都を舞台にしたミステリー『名探偵・星井裕の事件簿』シリーズ(双葉文庫)はテレビドラマにもなり好評刊行中。『京都紫野 菓匠の殺人』(小学館文庫)、『おひとり京都の愉しみ』(光文社新書)など著書多数。
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