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ところが昨今は、肉を食べることに対する抵抗がほとんどなくなり、大量に肉を食べることをとがめるような風潮は、まったくと言っていいほど無くなってしまった。
 先のステーキ店などは、300グラムだとか、400グラムカットのステーキを売り物にし、更には肉マイレージと称したポイント制を設け、食べたグラム数に応じて特典を付与するなど、大量に肉を摂取することを推奨している。
 少し前の時代なら、栄養学者などがこれに異を唱えたりしたものだが、みじんもそんな気配は見られないし、マスメディアも同様、それを好意的に報道している。
 肉好きのぼくとしては、何ひとつ文句はないのだが、今の肉ブームとも呼ぶべき時代の流れを、危うく感じてしまうのだ。
 今回の本題はここからである。 日本人だけではないのかもしれないが、食をブーム化する傾向は年々強くなっている。今はこういう食がトレンドだ、こんな料理が流行(はや)っていると言ってメディアがあおり、消費者がいっせいにそれを追いかける。
 鯖(さば)の缶詰がブームだと言われれば、これまで見向きもしなかった人たちがそれに群がる。結果、スーパーの棚から鯖缶が姿を消し、ふたたびその姿を現したときには、以前の二倍ほどの値段が付けられる。もう半年もすれば、きっと鯖缶のサの字も誰も言わなくなるだろう。勝手に人気をあおっておいて、しばらくすると梯子(はしご)を外す。
鯖にはいい迷惑だ。
 今の肉ブームの端緒となったのは、ローストビーフの大盛りだったような気がする。
 ご飯が見えなくなるほど、たくさんのローストビーフを載せた丼に、あちこちで行列ができた。お目当ては食べることより写真である。いわゆるインスタ映えという、アレだ。
 度々例に引いて申し訳ないが、人気のステーキ店でも、たいていは食べる前に写真を撮っている。おそらくすぐにSNSに投稿するのだろう。
 こうして食のブームは始まり、そして終わる。そして次のブームがまた始まる。次なる食ブームは、タピオカなのだそうだ。
かしわい・ひさし
1952年京都市生まれ。大阪歯科大学卒業後、京都市北区に歯科医院を開業。生粋の京都人であり、かつ食通でもあることから京都案内本を多数執筆。テレビ番組や雑誌の京都特集でも監修を務める。小説『鴨川食堂』(小学館)はNHKでテレビドラマ化され続編も好評刊行中。
『グルメぎらい』(光文社新書)、『京都の路地裏』
(幻冬舎新書)、『憂食論 歪みきった日本の食を斬る!』(講談社)など著書多数
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