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誰それさんという農家が丹精込めて育てた野菜、カリスマ漁師が釣り上げた魚、ブランド牛を熟成させた肉などなど。えりすぐった食材を使っていると言われれば、客はひれ伏すしかないわけで。
 原価率が高く、希少性もある食材を使った料理にダメ出しすれば、味覚音痴を疑われてしまう。
 かくして完全紹介制や予約困難な料理店は、必然的に評価が甘くなり、点数も高く、順位も上位にくるという仕組みになっているのである。
 おしなべて、食の口コミサイトで特徴的なのは、一部のマニアックな店を除けば、ランキングの上位は高額店ばかりである。普段遣いの食堂が上位に来ることなどはまずあり得ない。
 はたしてこの流れはいつまで続くのだろうか。
 バブルのころならいざ知らず、高額で贅沢な料理が高い評価をされ、普通の料理が低きに置かれるというのは、いささか時代錯誤ではないのだろうか。
 一方で、家庭料理については、全く逆の流れになっているのが興味深いところだ。
 皇室から一般家庭へ嫁ぐことになった、眞子さまのために用意された書籍のタイトルにあるように、1カ月2万円で夫婦二人分の食事を賄うことが、大方の家庭の目標である。
 あるいは、料理研究家の土井善晴氏は、「一汁一菜」を提唱し、簡素な食事を勧めている。
 さらにさかのぼれば、辰巳芳子氏が長く推奨してきた具沢山(ぐだくさん)のスープなども、同じ発想であり、簡素を旨とすべし、が本意だろうと思う。
 しばしば誤用されるが、簡素と質素は違う。ましてや粗末とは根本的に異なる。
 「こういう粗末な料理も、たまにはいいものだな」
 とあるタレントが、テレビ番組で茶粥(ちゃがゆ)を食べたときの感想を聞いて、驚いてしまった。
 粗末というのは、作り方が雑だったり、質が劣っていることを言うのであって、必要最小限にとどめる意の簡素とは全く別ものだ。
 それはさておき、家庭内では簡素、外食は豪華、という流れはケとハレという対比としては間違っていないだろうが、事の本質は別のところにあるようで、そこには大きな問題が潜んでいる。
かしわい・ひさし
1952年京都市生まれ。京都市北区で歯科医院を開業する傍ら、京都関連の本や旅行エッセイなどを数多く執筆。2008年に柏木圭一郎の名で作家デビュー。京都を舞台にしたミステリー『名探偵・星井裕の事件簿』シリーズ(双葉文庫)はテレビドラマにもなり好評刊行中。『京都紫野 菓匠の殺人』(小学館文庫)、『おひとり京都の愉しみ』(光文社新書)など著書多数。
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