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鴨と松茸の玉子とじ丼
松茸の最高のものにも魔力はある。ただ、“魔味"とまではいえないが、状態の良い国産の、しかも丹波産となると、その香りと歯応えに陶然とすることがある。トリュフのような動物的な魔力ではなく、あくまで森の精のような上品でみずみずしい魅力だ。この松茸を最高に味わうなら、やはり炭であぶるに限る。しかも、丸のままで、じわじわと。
 丸焼きという手法は、鳥であれ、魚であれ、いろいろな素材に対して効果的な調理法である。たんぱく質あるいは繊維質は、加熱すると水分と分かれようとするが、切断面がなければ水分を内包して加熱されることになるし、塊が大きければその分ゆっくりと加熱されるゆえ、より緻密に、より繊細に加熱が可能だ。
 たんぱく質は、乱暴に加熱すれば筋繊維が急激に縮み、結果として内包している水分、つまり血液を放出してしまうわけだが、この血液を内包しながらたんぱく質が固まることが旨さにつながる。調理は化学であり、科学でもあるゆえんだ。
 以前にフランスのペリゴールの黒トリュフを紹介した時に、黒トリュフで真っ黒になったオムレツの話をしたが、もちろんあらゆるきのこには、玉子を絡めた料理が存在する。おそらくは、きのこから出たおいしい出汁を玉子に閉じ込めてしまう魂胆だが、これにはいくばくかの油脂が絡んだほうがいいわけで、黒トリュフオムレツのバターの脂を、鴨肉に代用して完成させたのが「鴨と松茸の玉子とじ丼」である。いったい誰がこの旨さを否定できるのか、という味わいになる。
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