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海老芋の炊き込みご飯
 鮎の話に戻そう。
 子持ち鮎は長年の課題だった。煮ればべちゃっといやらしく、焼いては若鮎を超えられないと常々思っていた。いわゆる苦手な食材で、おまけに魚卵嫌いの痛風予備軍なもので、飽きるまで食べるなど、考えただけで恐ろしい。
 ところが、こういう食材の場合は、一つインスピレーションが湧くと勝負は早い。何しろ元々嫌いな点が分かっているから、欠点を考察する必要がないのだ。子持ち鮎の美点はもちろん腹子なので、他の部分は必要ない。焼いて頭尾を切り落とし、ヒレと骨を丁寧に取り除く。
 料理の創作とは、つまり何を除き、何を足すかということに尽きるわけで、ココからが大事。
 足すべきはまず塩分であるが、今回は鮎の魚醤(ぎょしょう)を採用した。しかし、水分を足せばべちゃっとが強くなる。水分を抜くためには、もう一度焼くか、揚げるかが必要になる。
 かくして、春巻きの皮を薄く一重だけ巻かれた子持ち鮎の腹子は、クリスピーな外側とふんわりとした食感のコントラストが見事な、晩秋のかんだのスペシャリテとなったのである。香ばしい香りの中ではじける腹子の味わいは、本能にガツンと響く。


今月の食材
舞茸 新潟県佐渡産
鮎 茨城県産
海老芋 京都府産

●元麻布 かんだ 東京都港区元麻布3-6-34 カーム元麻布1F TEL03-5786-0150
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