しかし惜しむらくは、それらはこれまで、ただ景色を楽しみ、周囲を散策するといった一般的なツアーでしか紹介されてこなかった。そこに着目したいくつかの民間企業や行政が今、日本の国立公園の価値再生のために総力を挙げている。
環境省では「国立公園満喫プロジェクト」として、日本の国立公園を世界の旅行者が長期滞在したいと憧れる旅の目的地にするべく、さまざまな取り組みをスタート。まずは国内8カ所の国立公園で「国立公園ステップアッププログラム2020」を策定し、平成28年から有識者会議を重ねてきた。
その方向性の一つは、特異な自然を最大限に体感するための非日常な体験プログラムを用意すること。特に、世界中でここにしかない自然を快適かつ安全に体験するエクスクルーシブなラグジュアリーツーリズムが追求されている。
たとえば北海道南西部に位置する支笏洞爺国立公園は、支笏湖と洞爺湖の二大カルデラ湖に加えて、羊蹄山や有珠山といった火山、そして硫気の噴き出す地獄現象などの火山活動が見られる「生きた火山の博物館」。
とりわけ、北限の不凍湖として知られる支笏湖は、鏡面のように静かな水面と、「支笏湖ブルー」と呼ばれる独特の水の蒼さで訪れる人を惹きつける。この湖をただ眺めるだけでなく、カナディアンカヌーでその水面へと漕ぎ出してみたらどうだろう。支笏湖ではカヌーでしか見ることのできない景色も多く、美しい湖水を直近に感じながら、四季折々の支笏湖の景色を脳に刻み込むことができる。
あるいは富士箱根伊豆国立公園では、富士山頂から太平洋まで一望する高台に建つ滞在施設「日月俱楽部」で、冷暖房完備のクリアドームテントのソファでゆったりとくつろぎながら、刻々と移り変わる日没の富士の景色が眺められる。これ以上ないほどの雄大な自然に抱かれていると、心身の疲れが緩やかにほぐされ、頭が冴えわたっていく。自然そのものが一番の魅力ではあるが、そこでどんな体験をするのかによって、感動の深さが変わる。
日本の国立公園は自然だけでなく、自然に育まれた文化や食に触れることができるのも特徴だ。コロナ禍が落ち着いたら、ぜひ魂の英気を養いに、日本の国立公園に出かけたい。
●環境省 国立公園満喫プロジェクト www.env.go.jp/nature/mankitsu-project


(上)谷川岳や浅間山、草津白根山など、日本百名山に数えられる名峰を有する上信越高原国立公園。温泉も豊富で、志賀高原を源とする横湯川の渓谷にある地獄谷野猿公苑では世界で唯一温泉に入る猿たちが観察できる。(下)富士箱根伊豆国立公園の滞在施設「日月俱楽部」が提供するクリアドームテント。床暖房やエアコン完備で快適に富士山と天空を眺められる。テントは各部屋併設のため、他のゲストを気にせず堪能できるのも魅力。


(上)阿寒摩周国立公園では、日本最大のカルデラ湖、屈斜路湖のほとりで期間限定のグランピングサイトを開催。4組限定の優雅なテントに宿泊し、夏の早朝雲海やカヌー、トレッキングなどさまざまなプログラムが体験できる。(下)那須火山帯の山々と火山活動によって生まれた湖沼や瀑ばく布ふ 、渓谷が見られる日光国立公園では、数々の歴史的建造物も見どころ。建築家アントニン・レーモンドの設計によるイタリア大使館の旧夏季別荘も復元されている。