京都の日本料理が、日々変節をとげるのも、致し方のないことだと納得した。
実に真っ当な疑問というか、指摘であり、恐らく大方の京都人は同じ考えを持っているだろうと思う。
きっと京都には千を超える数の日本料理店があるはずだが、メディアに登場して、和食がどうこうと語るのは数人に過ぎない。いつも同じ顔触れであることに辟易しているというのが、京都人の率直な思いである。
それに対して料理人は、上位に格付けされている店の主人が、京都の店を代表するのは、当然だと言っているわけだ。
そしてその理由を、外国人客に理解されやすいため、と言っている。 続けてこの料理人いわく、「和食の範囲を広げることが、和食を広めることに繋がる」
こう言ってのけた。
かねてから議論の的となっている、〈和食とは何か〉、どこまでが和食なのかという問題について、どうやら料理人たちは、枠を広げたがっているようだ。
カレーもラーメンも、焼き肉も、たこ焼きも、日本で独自のスタイルを築いた料理はすべて和食。京都でも著名な料理人は常にそう言い続けているのだが、それに反論する料理人はほとんどいない。これは実に不思議なことである。
言うまでもなく、和食は長い歴史を重ねてきた伝統文化である。能や狂言、文楽などの伝統芸能と比肩しうるもの。今の料理人たちにその意識が極めて希薄なことは、まことにもって残念至極。日本文化の一翼を担っているという気概が無いのなら、さっさと和食の看板をおろすがいい。
かつて日本料理を志す料理人は、ただ料理のみならず、あらゆる日本文化を学ぶのが常だった。茶道、華道はもちろん、日本庭園や仏像などにも造詣を深めようとしていた。
京都でも指折りの星付きホテル。その中の高級和食店では、独特の盛り付けをしたお造りを売り物にしている。 砕いた氷を皿に敷き詰め、その上に造りを載せ、氷柱を傍らに立て掛ける。これをして、店では〈枯山水〉と呼び、客はそれを聞いて歓声をあげる。
別段、日本庭園の専門家でなくても、〈枯山水〉とは水を使わずに、水を表現する庭園をいうことなど、誰でも知ること。ふんだんに氷を使った盛り付けを〈枯山水〉と呼ぶのは明らかな間違いである。恐らくは、ものの本質など、知ろうともしない料理人が、庭園の形だけを真似て、それを〈枯山水〉だと誇らしげに言っているのだろう。
自ら日本文化を破壊する料理人が、「和食は世界遺産」と言ってもらっては困る。
実に真っ当な疑問というか、指摘であり、恐らく大方の京都人は同じ考えを持っているだろうと思う。
きっと京都には千を超える数の日本料理店があるはずだが、メディアに登場して、和食がどうこうと語るのは数人に過ぎない。いつも同じ顔触れであることに辟易しているというのが、京都人の率直な思いである。
それに対して料理人は、上位に格付けされている店の主人が、京都の店を代表するのは、当然だと言っているわけだ。
そしてその理由を、外国人客に理解されやすいため、と言っている。 続けてこの料理人いわく、「和食の範囲を広げることが、和食を広めることに繋がる」
こう言ってのけた。
かねてから議論の的となっている、〈和食とは何か〉、どこまでが和食なのかという問題について、どうやら料理人たちは、枠を広げたがっているようだ。
カレーもラーメンも、焼き肉も、たこ焼きも、日本で独自のスタイルを築いた料理はすべて和食。京都でも著名な料理人は常にそう言い続けているのだが、それに反論する料理人はほとんどいない。これは実に不思議なことである。
言うまでもなく、和食は長い歴史を重ねてきた伝統文化である。能や狂言、文楽などの伝統芸能と比肩しうるもの。今の料理人たちにその意識が極めて希薄なことは、まことにもって残念至極。日本文化の一翼を担っているという気概が無いのなら、さっさと和食の看板をおろすがいい。
かつて日本料理を志す料理人は、ただ料理のみならず、あらゆる日本文化を学ぶのが常だった。茶道、華道はもちろん、日本庭園や仏像などにも造詣を深めようとしていた。
京都でも指折りの星付きホテル。その中の高級和食店では、独特の盛り付けをしたお造りを売り物にしている。 砕いた氷を皿に敷き詰め、その上に造りを載せ、氷柱を傍らに立て掛ける。これをして、店では〈枯山水〉と呼び、客はそれを聞いて歓声をあげる。
別段、日本庭園の専門家でなくても、〈枯山水〉とは水を使わずに、水を表現する庭園をいうことなど、誰でも知ること。ふんだんに氷を使った盛り付けを〈枯山水〉と呼ぶのは明らかな間違いである。恐らくは、ものの本質など、知ろうともしない料理人が、庭園の形だけを真似て、それを〈枯山水〉だと誇らしげに言っているのだろう。
自ら日本文化を破壊する料理人が、「和食は世界遺産」と言ってもらっては困る。

かしわい・ひさし
1952年京都市生まれ。京都市北区で歯科医院を開業する傍ら、京都関連の本や旅行エッセイなどを数多く執筆。2008年に柏木圭一郎の名で作家デビュー。京都を舞台にしたミステリー『名探偵・星井裕の事件簿』シリーズ(双葉文庫)はテレビドラマにもなり好評刊行中。『京都紫野 菓匠の殺人』(小学館文庫)、『おひとり京都の愉しみ』(光文社新書)など著書多数。
1952年京都市生まれ。京都市北区で歯科医院を開業する傍ら、京都関連の本や旅行エッセイなどを数多く執筆。2008年に柏木圭一郎の名で作家デビュー。京都を舞台にしたミステリー『名探偵・星井裕の事件簿』シリーズ(双葉文庫)はテレビドラマにもなり好評刊行中。『京都紫野 菓匠の殺人』(小学館文庫)、『おひとり京都の愉しみ』(光文社新書)など著書多数。