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 古バカラのガラス椀に入る治部煮の具は、能登牛のイチボ肉、金沢伝統のすだれ麩、加賀れんこんなど。
 「治部煮の具は鴨、という決まりはありません。小麦粉でとろみづけした醤油味の餡あんで仕立てていれば、魚でも鶏でもよい。中東ではラム肉で治部煮を作りました」
 楽十二代弘入(こうにゅう)の向付に盛り付けたのは「お粥(かゆ)をひとさじ食べた時のホッとする感覚を贅沢にしたらどうなるか?」をテーマに考案した料理。粥はソースにも似た役割で、金時草(きんじそう)のおひたし、薄塩した生の車エビ、春の貝類を盛り合わせた。米は
主食、という日本料理としては見たことのない構成だが、しみじみとなつかしい風味、かつ春を鮮烈に感じる組み合わせはまさに日本料理。口に入れると、髙木氏の意図を即座に納得する一品だ。
 一方、ノドグロの幽庵(ゆうあん)焼きは「器にも注目を」と髙木氏。この赤い皿は、金沢美術工芸大学卒業後大手メーカーでインダストリアルデザインを担当したのち退社、金沢に戻り卯辰山(うたつやま)工芸工房で陶芸を学んだ若者二人組の作品。デザインをパソコン
で行い、試作品を3Dプリンターで出力しつつ修正し、髙木氏の注文通りの難しい形を作り上げた。
 「デザイン性の高い陶磁器を作る際、試作品を焼いてもらい修正を伝えてまた焼いてもらい……となると数年を要することも多々ありますが、彼らの方法だと本当に速やか。店でこの皿を見た海外からのお客さまは、非常に強い興味を示します。海外のフェア用に作った別の器も大好評です」
 金沢では、まさに職人の進化が始まっているようだ。
(左)ノドグロを幽庵焼きにし、パリパリとした極細パスタ、カダイフの上に盛る。セロリ、花穂紫蘇、木の芽を添え、卵黄ソースを点々と。ノドグロの旨みを、香り豊かに味わう。
(右)上は加賀の伝統料理を現代風に。治部煮の煮汁で具全体を煮るのではなく、治部煮の餡をソースのように具の下に敷いた。能登牛、加賀野菜、すだれ麩に、餡をたっぷりからめて食べる。下は「お粥を贅沢にしたら?」と考案。白は柔らかく甘い万寿貝、赤はコリコリとして磯の香豊かな赤西貝で、どちらも北陸に春を告げる素材。米の優しい味と合う。
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