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食語の心 第23回
作家 柏井壽
日本料理を特徴付けているものに、独特の器使いがある。
 これは西洋料理と比べてみるとよく分かること。現代のヌーベルフレンチなどでは、多様な器を使うこともあるが、オーソドックスな西洋料理で使われるのは、大小だけが異なる丸皿のみ。色も大抵は真っ白で、金彩で縁取られるか、レストランのロゴマークが入るくらい。デザインに多様性は見られない。
 それに比して、我が日本の料理はどうだろう。磁器のみならず、陶器、漆器、木地、銀器など、素材も多岐にわたれば、角、丸、扁平(へんぺい)と形もさまざま。これほど多様な食器を使う民族は、日本以外にないだろうと思う。
 先年、和食がユネスコの無形文化遺産として登録されたのも、この器使いと無縁ではない。季節によって、時宜に応じて、器を使い分けることは、食を文化にまで高めることにつながっている。あるいは地方によって、独特の器を使い、そこから伝統的な料理が生まれるということも少なくない。
 たとえば秋田の曲げわっぱ。白木のそれは、弁当箱として用いられることが多く、独自の弁当文化を生み出した。
 この曲げわっぱを使って、弁当を出している和食店で、大きな間違いを犯している店を見つけ、暗澹(あんたん)たる気持ちになった。曲げわっぱの綴じ目が手前ではなく、向こう側にしてテーブルに置かれたのである。
 曲げわっぱの弁当箱は多くが楕円(だえん)形であって、つまりは角のない円形の器。茶道の世界から始まった仕来りとして、円形の曲げ物は、綴じ目が手前に来ると決められている。角のある角型は綴じ目が向こう側。これをして〈丸前角向(まるまえかくむこう)〉という。
 これは古くから日本に伝わる〈陰と陽〉という考え方に基づくもので、簡単に言えば、丸いものは陽で、角のあるものは陰。というわけで、丸い曲げわっぱの場合は、陽なので綴じ目はそのまま手前でいい。これに対して角型の場合は、綴じ目を向こう側に持っていくことで、陽に転じる、ということになる。
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