その証しともなるのが焼き魚。たとえば鮎の塩焼きなどは、どれくらいの振り塩をするか、どの部位に塩を付けて焼くか、で大きく味わいが異なってくる。微妙な塩加減は、料理人の腕の見せ所である。それを放棄してしまうかのような傾向は、料理人の腕を鈍らせる結果しか生まない。
そして、さらなる問題は、調味を塩に頼ることは、ともすれば、手抜き料理に陥る危険性があることも指摘しておきたい。
どんなに秀でた塩であっても、それは自然が作り上げた産物であって、そこには料理人の技術は介在しない。有り体に言えば、塩は容器から出すだけでいいのだ。
蕎麦屋にせよ、天麩羅屋にせよ、つゆを作る手間は並大抵のものではない。出汁を取り、調味料を加え、独自の味に仕立て上げる。そこに心血を注いでこそ、客はその味わいに心を揺さぶられるのだ。塩信仰とも呼びたくなるような、過剰な塩味偏重は、画一的な味覚を客に強いるだけでなく、料理人の技量をも低下させる。何事もほどほどがいいのである。
加えて、日本には醤油を始めとして、味噌や味醂、麹などさまざまな調味料があり、それらを足したり引いたりして、個性豊かな風味が生まれるのだから、それを使わないというのは何とももったいない。
カビを筆頭に、多くの微生物が介在し、長い時を経て作られる調味料は、日本の誇りとも言える。もしも醤油や味噌なかりせば、とてもじゃないが日本料理は存在し得ない。
いや、日本料理だけではない。今や日本の国民食とまで言われるラーメンとて同じ。醤油、味噌、とんこつの三つがラーメンの味付けの柱を成していることは疑う余地もない。
中国から渡来した料理の中で、なぜラーメンだけが突出した人気を、長く保ち続けているかと言えば、味に変化があり、それが日本独自の調味料をベースにしているからだ。
無論、元は中国だが、日本独自の発展を遂げ、時に和食の一つとして数えられるほどになった。とんこつはさておき、醤油と味噌という、日本が誇る二大調味料を味の基本としたことが、その最大の要因。
そして興味深いのは、醤油も味噌も発酵という過程を経て、作り出される調味料だということ。
世界文化遺産に指定された和食。その味のキーワードは発酵なのである。次回はその話を。
そして、さらなる問題は、調味を塩に頼ることは、ともすれば、手抜き料理に陥る危険性があることも指摘しておきたい。
どんなに秀でた塩であっても、それは自然が作り上げた産物であって、そこには料理人の技術は介在しない。有り体に言えば、塩は容器から出すだけでいいのだ。
蕎麦屋にせよ、天麩羅屋にせよ、つゆを作る手間は並大抵のものではない。出汁を取り、調味料を加え、独自の味に仕立て上げる。そこに心血を注いでこそ、客はその味わいに心を揺さぶられるのだ。塩信仰とも呼びたくなるような、過剰な塩味偏重は、画一的な味覚を客に強いるだけでなく、料理人の技量をも低下させる。何事もほどほどがいいのである。
加えて、日本には醤油を始めとして、味噌や味醂、麹などさまざまな調味料があり、それらを足したり引いたりして、個性豊かな風味が生まれるのだから、それを使わないというのは何とももったいない。
カビを筆頭に、多くの微生物が介在し、長い時を経て作られる調味料は、日本の誇りとも言える。もしも醤油や味噌なかりせば、とてもじゃないが日本料理は存在し得ない。
いや、日本料理だけではない。今や日本の国民食とまで言われるラーメンとて同じ。醤油、味噌、とんこつの三つがラーメンの味付けの柱を成していることは疑う余地もない。
中国から渡来した料理の中で、なぜラーメンだけが突出した人気を、長く保ち続けているかと言えば、味に変化があり、それが日本独自の調味料をベースにしているからだ。
無論、元は中国だが、日本独自の発展を遂げ、時に和食の一つとして数えられるほどになった。とんこつはさておき、醤油と味噌という、日本が誇る二大調味料を味の基本としたことが、その最大の要因。
そして興味深いのは、醤油も味噌も発酵という過程を経て、作り出される調味料だということ。
世界文化遺産に指定された和食。その味のキーワードは発酵なのである。次回はその話を。

かしわい・ひさし
1952年京都市生まれ。京都市北区で歯科医院を開業する傍ら、京都関連の本や旅行エッセイなどを数多く執筆。2008年に柏木圭一郎の名で作家デビュー。京都を舞台にしたミステリー『名探偵・星井裕の事件簿』シリーズ(双葉文庫)はテレビドラマにもなり好評刊行中。『京都紫野 菓匠の殺人』(小学館文庫)、『おひとり京都の愉しみ』(光文社新書)など著書多数。
1952年京都市生まれ。京都市北区で歯科医院を開業する傍ら、京都関連の本や旅行エッセイなどを数多く執筆。2008年に柏木圭一郎の名で作家デビュー。京都を舞台にしたミステリー『名探偵・星井裕の事件簿』シリーズ(双葉文庫)はテレビドラマにもなり好評刊行中。『京都紫野 菓匠の殺人』(小学館文庫)、『おひとり京都の愉しみ』(光文社新書)など著書多数。