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山鮨 二種
真黒焙り松茸秋の山すし
マグロの上質な脂にこそ、トリュフは寄り添う。アルバの白も言うことなしだ。オリーブオイルは必要ないと言ったらイタリア人が悲しそうな顔をした。
マグロを真黒と書いて、トリュフの鮨にするのは昨年からの秋の定番だが、焼き松茸の握りは10年来の自慢の料理だ。厚さ5ミリに正確に切った松茸の片面に隠し包丁を入れ、裏面に薄く醤油を塗って炭にかざし、上からぬれ紙をかぶせて蒸し焼きにする。松茸はその中の水分こそが旨みであり、香りであるから片面しか焼いてはいけない。隠し包丁は焙られて浮き出たエキスを表面にとどまらせるのに効果的だ。
 ちなみにこれを握るには決心が必要。というのも、にじみ出たエキスは、沸騰していて、瞬時に指を焼いてしまうから。
 今年はダイオウイカを始め、深海魚の水揚げが異常に多いと漁師に聞いた。3・11以来、海魚の様子がおかしくなったと嘆く漁師も少なくないが、おかげで今年は1キロアップの赤ムツが頻繁に上がっている。「赤ムツの山椒醤油掛け」は、漁師が「こんな大きなの見たことない!」と言って持ってきた2.2キロの赤ムツである。
 まず塩を振り炭火で焼くも、あふれでる脂で塩はとっくに流された様子。さらに焼き続け、皮がカリカリになったところで火から下ろし、甘さを抑えた山椒醬油を上から掛けた。ふわふわのうなぎの蒲焼きだと想像していただけたらたぶん近い味わいだと思う。
 天候や海流の変化は、料理に大きな影響を与える。しかし、地球の長い歴史の中で、我ら人類はほんの一瞬しかその姿を垣間見ることしかできないのだから、せいぜいその変化を楽しみたいと思う。
 調理場は、日々の繰り返しの場ではなく、自然を理解し自然に寄り添う姿勢を忘れてはならない。こう再確認した、秋の訪れだった。

●元麻布「かんだ」 東京都港区元麻布3-6-34 カーム元麻布1F TEL03-5786-0150

※今月の食材:
マグロ 能登半島産
トリュフ フランス産
松茸 中国産
ハモ 徳島産
赤ムツ 小田原産
賀茂なす 京都産
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