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 1ドル=120円台まで円安が進んでも、日本の大手金融機関による海外事業拡大に懸ける思いが萎えることはなさそうであり、むしろ今後一段と加速していくものと考えることができる。東京海上ホールディングスの例で言うと、実に1兆円近くにも上る巨額の買収資金の大半が豊富な手元資金で賄われる見込みであり、結果としてそれは同規模の円売り・ドル買い需要を今後発生させることにつながる。同様の事例がこれからも相次ぐこととなれば、それは潜在的かつ非常に大きな円安・ドル高要因として意識されなければならないだろう。
 同時に、最近は国内大手金融機関に限らず、広い業種にわたる国内事業会社の手によって大型の海外M&Aが進められていることも見逃すことはできない。調べによると2015年1~6月の日本企業による海外企業の買収額は前年同期と比べ6割増の約5兆6千億円と、1~6月としては過去最高の水準になったという。これは、景気回復に伴う業績改善で各企業の投資余力が高まっているなか、円安の進行にもかかわらず、なおも旺盛なM&Aの意欲が衰えていないことを示すものと言える。
 当然のことながら、7~12月においても足元の勢いが継続すれば「通年で過去最高水準」となる可能性が高く、年間トータルでは10兆円を超える規模となる可能性もある。換言すれば、年間で10兆円規模の円売り・外貨買い需要が発生するといった可能性があるわけであり、これは足元の趨勢(すうせい)的な円安傾向の行方を推し量るうえにおいても大きな意味を持つ材料であると言えよう。
 執筆時のドル/円相場は、米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げに踏み切る時期を見定めるべく様子見ムードが色濃く感じられる展開となっている。実際に利上げとなれば、それに相前後していったんはドル/円の上昇がピークアウトし、一時的な調整局面を迎える可能性もあろう。しかし、それでも“趨勢的"に円安・ドル高の大きな流れは今後も変わらないものと考えられる。
(左)THIS MONTH RECOMMEND
現代の諸問題をあらためて俯瞰する!
2014年秋に行われた実際のセミナーの模様をわかりやすい形で文章にしたことで、聴講者が抱く疑問や問題意識と読者の興味関心がシンクロしやすい作りになっている。なかでも、焦眉(しょうび)の急である中国経済やTPP(環太平洋経済連携協定)、日本の農業問題などについての素朴な疑問に対する“伊藤先生”の回答は切れ味が抜群であると言える。決して特定の見方に偏らず、個々の難解な問題を俯瞰(ふかん)している点は大いに評価したい。
(『日本経済を「見通す」力』伊藤元重著/光文社新書/ 907円)

(右)田嶋智太郎(たじま・ともたろう)
金融・経済全般から戦略的な企業経営、個人の資産形成まで、幅広い範囲を分析、研究。講演会、セミナー、テレビ出演でも活躍。 tomotaro-t.jimdo.com
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