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 仮に、オバマ大統領が確信犯であったとしたら、それは足元でオーバー・スピード気味に進んでいたドル高をけん制したいとの思いによるものだろう。また、黒田総裁の発言からは明らかに過度な円安進行にいったんは歯止めをかけておきたいとの強い思いが透けて見える。実際、5月半ばあたりから6月初旬にかけての円安・ドル高の進行は相当に急激なものであった。米大統領にしてみれば、米国経済の先行きが心配にもなる。日銀総裁にしてみれば、対米関係の強化や環太平洋経済連携協定(TPP)交渉の妥結に支障を来すことが懸念されるのだろう。本来、それらは日銀総裁の仕事ではないのだが、黒田氏はある意味で“政治家"であり“閣僚"的でもある。
 ここで、2人の要人が意図して外国為替レートを理想的な水準に落ち着かせようと考えたのであれば、それは少々傲ごう慢まんと言える。本来、市場のことは市場が決めるのであり、それは一種の“神の領域"と言ってもいい。結果的に、円安・ドル高の流れが完全にストップし、むしろ円高・ドル安の流れが本流になったなら、それはあくまでも偶然の出来事である。
 以前本欄で推奨本として挙げた『日銀はいつからスーパーマンになったのか』(講談社)のなかで、著者の北野一氏は行き過ぎた相場を熟した柿に例えて「熟柿は何もしなくても、早晩、落ちる」、「いかなる権力者もスーパーマンなどではない」とした。同時に、北野氏は「平均回帰」という概念の重要性も唱えている。
 言えることは、意図された要人の発言によって市場の流れが根本的に変わるなどということはなく、変わる場合には市場を取り巻く環境(各国のファンダメンタルズなど)が劇的に変化しなければならないということである。そのあたりのことを冷静に踏まえたうえで、今後の株価や外国為替レートと向き合って行きたい。
(左)評者による久々の書き下ろし。手前みそながら、今後の米国経済の本格的な拡大を想定し、その上げ潮に乗る方法を多角的に検証した渾こん身しんの一冊である。この数年、対円でドルは大きく上昇し、米国の株価も大幅に値を上げた。とはいえ、米国で約10年ぶりの利上げが実施されるのも、来年の米大統領選に向けて「経済」を争点とした選挙戦が本格的に繰り広げられるのも実はこれからであり、今後の伸びしろは大きいとしている。
『上昇する米国経済に乗って儲ける法』田嶋智太郎著/自由国民社/1,620円
(右)たじま・ともたろう 金融・経済全般から戦略的な企業経営、個人の資産形成まで、幅広い範囲を分析、研究。講演会、セミナー、テレビ出演でも活躍。 tomotaro-t.jimdo.com
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