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建築コンセプトは「まちに開かれた公園のような美術館」。東西南北四つの出入り口を設け、回遊スペースを広くとり、椅子も多く設置。訪れた人が思い思いの時間を過ごす。
ただし建築的に大成功といえる本当の理由は、現代建築ファン以外の人々にも21世紀美術館が好意的に受け入れられ、憩いの場としてにぎわっている点にある。街の中心に立地するという利便性もあるが、金沢の市民たちにとって21世紀美術館は、休日に家族や友人と訪れて楽しむ場として定着した。さらに、ちょっと座ってひと休み、雨が強くなったから雨宿り……と、地元の人が気軽に集まる場所にもなっている。
 なお21世紀美術館は現代美術を軸に据えた収蔵と展示を特徴としているが、これは公立美術館としては珍らしい。実際、コンセプト決定に際しては葛藤があったようだ。
 当時市長を務め、現代美術館構想を打ち立てた山出保(やまでたもつ)氏は著書『金沢を歩く』(岩波新書)の中で「歴史と伝統のまちに現代美術館はそぐわない」という意見が市民の大半から出るのみならず、既成流派が主流の美術界からも冷ややかな空気を感じた、と記している。
 しかし、山出氏は周囲や市民と粘り強く対話を重ねて現代美術館の必要性を理解してもらうよう努めるとともに、世界的に活躍する現代美術のキュレーター、長谷川祐子氏に監修を一任。その結果、ジェームズ・タレルやヤン・ファーブルといった現代美術の名作家たちが恒久展示作品を制作するなど、世界からも大きな注目を集める内容を備えた美術館が実現した。加えて、金沢ゆかりの美術工芸作品も収集。ただの現代美術館ではなく、金沢らしさも併せ持つ場としての機能も獲得した。
 21世紀美術館は年間150万人もの入館者を迎え、オープンから7年目にして入場者1000万人を達成した。今やこの美術館を目当てに金沢に来る人も多いのみならず、兼六園や長町武家屋敷が目当ての観光客も足を運ぶ。金沢の街は21世紀美術館の成功で新たな観光資源のみならず、さらなる文化的豊かさを手に入れたといっていい。
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