
フォアグラのテリーヌ。美しい見た目とおいしさを併せ持つ繊細な料理。
が、しっぽを巻いたまま引き下がるような器ではない。ひと月後、改めて渡仏し、南西部の「オーベルジュ・デュ・ビュー・ピュイ」にポストを得た。当時、一つ星だった店のシェフであるジル・グジョン氏は、MOF(フランス最優秀職人)タイトルを獲得したばかり。虎視眈々と料理界のトップを狙っている時期だった。今や三つ星を獲得し、フランスを代表する名店で、小林氏はひたすら働いた。8時に厨房に入り、終わりは早くても夜中の2時。「やめたいと思ったことやくじけたこと?あまりの忙しさに、くじける暇もなかったです。山奥の田舎で駅まで行く手段さえなく、逃げる手立てもなかった(笑)」と、当時を振り返る。何となくフランスに渡ったのではなく、確固とした覚悟を決めてきたのだ。フランスで修業する日本人の多くは、魚セクションに配されることが多い。が、小林氏が見たかったのはフランスが誇る肉料理。「ボク、魚アレルギーなんです」と、首尾よくシェフの傍らに立てる肉ポジションを獲得。「今では重鎮となったシェフの、まだ若く一番上昇気流に乗っていた時期に彼の真横で料理を習えたのは幸せだった」と語る。その後、プロバンス地方とアルザス地方の星付きレストランを経て、2003年、世界にその名をとどろかせるアラン・デュカス氏のパリ旗艦店「アラン・デュカス・オ・プラザ・アテネ」に入店。ガストロノミー料理を目指す若き料理人はついに、三つ星レストランの厨房に立った。