PAGE...1|2|3
焼き鮎の素麺
鮎の旨味は苦味、甘味、涼味。苦さを感じて夏を迎える。蓼は定石。甘苦い出汁に鮮烈な一撃を加える。
この連載の最初で触れたように私は日本画がとても好きなのだが、若い頃は、西洋画を好んで見ていたし、それが若くしてパリに渡るきっかけにもなった。つまりは、味覚も感性も経験によって変化するということだ。異文化に対する憧れが何にも増して強かった自分が、その中に身を投じて後、徐々に感じ始めた違和感。それが日本料理を肌で感じ始めた最初の記憶かもしれない。
 ただおいしいものを作りたいと過ごした20代、日本料理とは? と自問し続けた30代、そして40歳で独立し、自分の料理を模索し続けながら進んできた道は、世界の料理シーンの流行とはほぼ逆の、飾らず、奇をてらわず、自然のままに、だ。
 飾るのは本質が足りぬ故。奇をてらわずして感動してもらえる料理を作るためには、自然の力をそぐことなく皿の上に載せることと信じてこの歳としを迎えている。
 全てのお客様の満足に足りる料理を作ることの難しさを痛感する。冒頭のお客様のクレームは、そのお客様が楽しんでいただけなかった証しであることは事実。私が最高においしいと信じて出した料理であるのに。主客共に悲しい結果だ。
PAGE...1|2|3
LINK
GOURMET
椀味不只淡 第15回
>>2013.12.16 update
GOURMET
神田裕行の椀五十選 第1回
>>2014.1.10 update
GOURMET
椀味不只淡 第8回
>>2013.12.24 update
GOURMET
椀味不只淡
>>2013.12.9 update
GOURMET
椀味不只淡 第5回
>>2013.12.24 update

記事カテゴリー