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大規模化は必然だった
元「SUUMOマガジン」編集長の小野有理氏の分析によると、バブル経済崩壊後、地価が急激に下落し、マンション供給の「都心回帰」が起こる。都心の好立地のマンションが安く手に入るようになり、1994年以降8年もの間、首都圏新築マンションが8万戸超供給されるというかつてない事態となった。この時期のマンションの特徴として、都心回帰、大規模化、超高層化、高付加価値化(断熱性能などの住戸内機能、コンシェルジュや共用施設などのサービス機能、防犯性能や耐震性能など)が挙げられる。政府は1997年に「土地の所有から利用へ」をキーワードに「新総合土地政策推進要綱」を決定し、同年「密集市街地における防災街区の整備の促進に関する法律(密集法)」を制定。これにより、都心の密集市街地の再開発がしやすくなった。その後も、全国総合開発計画(五全総)」や「中心市街地活性化法」を定め、市街地再開発事業区制度の創設、都市計画法の改正などを続々と行う。東京都心はより大規模で超高層な街へ、変わるべくして変わってきたのである。
 この流れの一方で、注目したいのは、マンションの魅力として「コミュニティー」という言葉が多用されるようになったことだ。大規模化、超高層化で要塞化したマンションが、反動のようにマンション内での人と人との交流やコミュニティー活動を通した「人間らしさ」をうたい始めた。広告のキャッチコピーでは、マンションでありながら「街の誕生」や「ランドマーク」といった、あたかも一個の街であるかのような単語が使われるようになる。 
 無駄を排除し、効率化するほど、その一方で人間らしい温かみのある「まち」に焦がれ、追い求める。しかし、 マンションの「コミュニティー」として用意された共用部の多くは、図書室やジムなど使われ方が決まったものだ。複雑で多様なリアルな街とは当然、似て非なるものになるし、そこから生まれる予期せぬアクティビティーも起こりにくい。

街における銭湯の存在価値

「造作(ぞうさく)は用なき所を作りたる、見るも面白く、万(よろず)の用にも立ちてよしとぞ、人の定めあひ侍(はんべ)りし」
 吉田兼好『徒然草』の中の一文だ。家の作りようについて言及する中で、「家を作る時は、一見、用のないところを作り込んでいたほうが、見るにも面白く、万事、役に立つと、人々が評定し合っている」と語っている。都市にもこのように、合理性では割り切れない、無用の空間が必要なのではないだろうか。
 海外では、広場がそんな「万の用」を果たす街の余白となっている。日本の再開発でも広場として公開空地(オープンスペース)が設けられているが、クレームなどの問題のため、結果的に誰も使わない場所になっている場合が多い。
 一方で、古来、日本の街で余白となっているものの一つが、銭湯である、と文筆家の小野美由紀氏は言う。江戸時代から、銭湯は生活の場であるとともに、身分や職業、年齢も関係なく、地域の人々が交流し合う街の憩いの場だった。地元の人だけでなく、よそから訪れる人々をも優しく迎え入れ、その街の温もりを伝えるのが銭湯だ。東京には今も数多くの銭湯があるが、日々、確実に減少している。安らげる銭湯があるというのは、街の官能性を測る上でも重要な要素となり得るが、地方では銭湯の数が圧倒的に少ないため、調査項目からは外れている。
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