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直径44㎜、厚さ12.10㎜のケースのラインスポーツに新たに加わったクロノグラフ・モノプッシャーラトラパンテ。素材として新たに採用されたマット仕上げのRGがケースとブレスレットを華やかに彩る。裏側からは、精度の高さを物語る美しいムーブメントを垣間見ることができる。
手巻き、ケース径44㎜、RGケース×RGブレスレット、10,108,800円
振り返れば、時計師になってゆく過程で、何と多くの失敗をしてきたことか。例えば腕時計で最初にレゾナンスをつくった時がそう。ご存じのように、レゾナンスは二つのテンプに共振現象を起こさせることで、衝撃による誤差を最小限に抑える仕組みのことですが、これがうまくいかない。動かないんじゃないかと思うことすらありました。不安になって友人に見せると、「いいよ、すごくよく動いているじゃないか」と言われました。それでいいと思う人もいるでしょうけど、私はそうじゃない。完璧な機構を求めているから、部品の形状や組み立て方などの実にデリケートで微細な差異をどこまでも追求しないと気がすまないんです。以後も試行錯誤を重ねて完成させました。大事なのは、失敗する中でなぜ失敗したのかを考えることと、学ぶこと。そうすれば、次の時計をつくる時に、やっていいこと・いけないことの判断ができるようになります。使える技術と使ってはいけない技術とがはっきりしてくるのです。パリで独立してからの10年、私は机の引き出しに「失敗ボックス」と名付けた箱を入れていました。そこに、失敗した部品を1年分ごとに小さなケースにまとめていたんです。今は失敗した部品は捨てますが、新しいムーブメントをつくるたびに、小さなケースが一杯になるくらいの失敗部品が生まれます。新しい機構の発明は、常に多くの失敗の上に成り立っているのです。それらは単なる失敗作ではなく、次のステップに進むための経験値だと考えます。

 トゥールビヨン・スヴランの誕生から5年後、ジュルヌはその技術を「トゥールビヨン・スヴラン・デッド・セコンド」に昇華。さらに2012年には、スヴラン・コレクションに「クロノメーター・オプティマム」を発表。高精度を担う複数の機構を一つの時計に組み込んだ。また2006年には、正時を鐘の音で知らせるソヌリ機構とミニッツリピーター機構を組み合わせた「完璧無比のグランソヌリ」とも称すべき「ソヌリ・スヴレンヌ」を発表。独立以来20年にわたって、ジュルヌは時計史に新たな一ページを開く挑戦を、休みなく続けている。

 メカニズムは古典を模範としながらも、今までにない方法で動かす、それが私の時計づくりの美学です。シャネルの資本が入る今後も、自分の好きなものを自由につくり続けます。2018年は、ラインスポーツに新たなモデルとしてクロノグラフ・モノプッシャーラトラパンテが加わりました。素材はプラチナ、ローズゴールド、チタンの3タイプ。もちろん、自社開発の新ムーブメントを搭載した自信作です。またクラシックラインでは、コレクションをどんどん刷新します。それと2019年はトゥールビヨン・スヴランの20周年を記念して新しいモデルを出します。あとクロノメーター・レゾナンスが誕生20年を迎える2020年には、より精度の高い複雑なムーブメントを搭載した新モデルのほか、天文時計の複雑さを有したグランドコンプリケーションも発表予定です。
 でも私は、将来のモデルについてはあまり考え過ぎないようにしています。頭に浮かんだ新しいプロジェクトに100%の力を注ぎたい。今すでに向こう3~4年の開発計画があるので、その先を考えるのは2年後くらいでしょうか。生涯、独立時計師。グループ企業に“身売り"する気は毛頭なく、今後も“やりたいことリスト"に従って、技術を追求していきます。私のクリエイティビティーは枯れない泉のようなもの。人生の最後まで働き続けますよ。

●F.P.ジュルヌ 東京ブティック TEL03-5468-0931 www.fpjourne.co.jp
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