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あの人もこの人も、有名絵師がこぞって描く 月岡芳年「百器夜行」大判錦絵二枚続 1865(慶応元)年/国際日本文化研究センター蔵 ※東京会場前期7月5日~31日、大阪会場前期9月10日~10月10日展示
「百鬼夜行絵巻」が妖怪を造形化
もう一つの妖怪画の源流として重要なのは、室町時代に描かれた、現存する最古の「百鬼夜行(ひゃっきやぎょう)絵巻」、いわゆる「真珠庵(しんじゅあん)本」である。
 「実は真珠庵本にも原本があると言われ続けています。というのも、出だしに鬼が走って出てくるのがあまりにも唐突で前段がありそうだし、妖怪たちがずっと外を歩いているところに突如、お歯黒する醜女(しこめ)の
妖怪が登場する室内の場面に転じるのも不自然。どこかに錯簡があると想像されるからです」
 画題が示すように、時代を超えて数多く描かれた「百鬼夜行絵巻」には、実に多種多彩な妖怪たちが登場する。彼らが真夜中、京都の都大路を「暗闇は俺たちの時間だ」と我が物顔でにぎにぎしく練り歩くのだ。この発想はどこから出てきたのか。
 「中世までの京の都には、死体がごろごろ転がっていました。庶民は埋葬するお金がなくて、死体を近所に放り出すんですね。で、夜中に野良犬や烏からすが死体をくわえてって、貴族の館の前に落としたりする。貴人たちはそれを不吉と怖がり、暗闇に対する恐怖を募らせていく。そういう状況の中で、最初は文学で『暗闇には妖怪がいて、夜ごと、大挙して行進する』なんて話が書かれたんです。
 それと相まって。地獄絵を下敷きにした絵画として、鬼が変化したような妖怪が描かれました。しかも『鬼はいろんなモノに形を変える』という設定の下、つぼとか瓶、板、鍋、釜、布など、さまざまな器物に“変
身"して家にも入り込むとされました。『百鬼夜行絵巻』で大勢を占めるのは、そういった器物の妖怪たち。日本人は昔から『モノでも百年経てば魂を持つ』と信じてますからね。
 百鬼夜行の妖怪は暗闇への恐怖が生み出したものであり、『夜中に外を出歩くなよ』『モノをぞんざいに扱うと、妖怪に化けるぞ』といった教訓のメッセンジャーでもあるんです」
 中世は妖怪が造形化された時代。「百鬼夜行絵巻」の他にも、器物の妖怪を描いた「付喪神(つくもがみ)絵巻」や、神虫にも似た巨大妖怪が成敗される「土蜘蛛(つちぐも)草紙絵巻」、体調を悪くさせる妖怪・腹の虫の正体を暴いた医学書「針はり聞きき書がき」など、名作が次々と生み出された。
 面白いのは、鬼はもとより器物や動物、植物、魚介などが変化した妖怪たちは基本、人間の姿をしていること。手足があって、二足歩行をし、頭に異形のものを載せている感じ。日本人が大好きな“かわいい系"だ。
 「日本人の精神性って、本来は明るく、カラリとしたものなんだな」と思い出させてくれるようだ。


●大妖怪展 yo-kai2016.com
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