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器物に命を吹き込んで“かわいい”妖怪登場! 重要文化財 伝土佐光信「百鬼夜行絵巻」(部分) 16世紀(室町時代)/京都・真珠庵蔵 ※東京会場後期8月2日〜28日展示 ※大阪会場後期10月12日〜11月6日展示
「大妖怪展」の特色は、妖怪の本質を美術史的な優品で概観している点である。妖怪画はほとんどが模本のため、これまでは「年代の判明する基準作があって、その様式変遷を追う」という美術史の常じょう套とう手段では解明できないことがネックとなっていた。しかし「論文はムリでも、展覧会ならできる」と、本展を監修した安村敏信氏は考えた。そして縄文時代から現代に至る4000年の妖怪の流れを美術の視点で体感できる“妖怪一大絵巻"を具現化させたのである。
 さあ、時空を超えて妖怪たちが跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)する世界の深奥を探訪しよう。
 私たち日本人の心には古来、妖怪が棲んでいる。それは、「猛威を振るう天変地異や、身にふりかかる災厄、思いがけず手に入れた幸運など、不可解・不思議な出来事があると、何でもかんでも原因を妖怪に求めてきた」という歴史のなせる業である。いかなる災厄も恐怖も不思議も、原因が特定できれば、心に湧きあがる恐怖や不安は鎮まるというもの。妖怪のおかげで、日本人は心の平穏と明るさを保ってきたと言えよう。
 つまり妖怪たちは不可解な出来事を説明してくれる存在であり、また危険を遠ざけたいという願望をかなえてくれる存在でもある。日本人はいわば「心のよりどころ」として無数の妖怪たちを創り出し、地域で綿々と語り継いできた。日本人の遺伝子には、だからその情報がしっかり刻まれている。科学が目覚ましい発展を遂げてなお、妖怪の存在をすんなり受け入れる素地があるわけだ。それが証拠に、現代にあっても、日常生活で起きた異変を妖怪の仕業とする「妖怪ウォッチ」という新しい妖怪がどんどん量産されている。
 これは科学至上主義の欧米の人には持てない感覚。「日本は文明の先端をいく国なのに、どうしてこんなにたくさんの妖怪が否定・排除されずに今も人々の暮らしの中に生きているのか」と不思議に思うようだ。
 ともあれ、妖怪たちは時空を超えた存在。今この時も私たちの暮らしの至る所で、新旧入り混じって跳梁跋扈しているのである。
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