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椀味不只淡 第1回
文・神田裕行(元麻布「かんだ」店主)
Photo Masahiro Goda
神田裕行の椀五十選 第1回
 「日本料理は椀、刺しにある」といわれる。全く同感だ。
 刺しとは造りを意味し、日本料理屋では、季節の最高の魚介類を最高のタイミングと温度と調味料で出すことに心血を注ぐ。命の輝きを失った魚の、切れ端のような刺身が、ぬるい温度で、市販のしょうゆに添えられて出てくることなど、許されるわけもない。
 刺しには、料理屋の心意気と、魚介類に対する知識と理解力が込められているのだ。
 そして椀。
 18歳で包丁を握り、48歳の現在に至るまで30年の料理人人生の中で、最も難解なテーマがある。日本料理の本道を行こうとするならば、越えなければいけない山がいくつかあるが、その最高峰は漆椀の中にあるといつも思う。
 料理人の知識の深さ、見識の広さ、技術の高さはもちろん、勇気や優しさも、椀を食べこんだお客様には全てが見えてしまうからだ。
 一方、海外からのお客様にとっても、椀と刺しは特別な日本料理。刺しは彼らにとっては日本料理屋に来る目的そのものズバリであり、椀は残念ながら最も不可解な味のついていないスープとして、受け止められることが多い。
 でも、日本料理の華は“椀"なのである。
(上)紫陽花進上
初夏の山をイメージし、えんどう豆、とうもろこし、叩きえびを混ぜて進上にした。すると紫陽花の花になった。よし、紫陽花進上と名付けよう。椀種も紫陽花も露にぬれてこそ美しい。

(下)かさご酒蒸し
正式にはふさかさごという初夏の魚。赤い肌はゼラチンにあふれ、身は淡白で煮物よりも椀に向く。魚には薄く塩をして酒で蒸す。出汁の味わいは進上より少し強め。蒸し上がった瞬間が一番うまい。
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