PAGE...1|2
(左)牡丹鱧煮物椀
火を通すからといって鮮度が落ちたハモを使うことは許されない。新鮮ゆえに、ふんわりと甘く口中に溶けてくれるのだ。
 蓮根は冬の野菜でもある。クワ掘りで泥の付いた冬の加賀蓮根の素晴らしさは後日、紹介させていただくが、今回は私の大好きな蓮根饅頭を選んだ。
 おろした蓮根に出汁と葛を混ぜ、練り上げて丸くまとめて冷ました後、高温の油でカラリと香ばしく揚げる。
 椀に盛り、うす葛仕立てのうま出汁に青葱を加え手早く椀に注げば、まるで蓮池の水面のような趣だ。
 こちらの画竜点睛は、和辛子である。出汁に流れないギリギリの固さに練って蓮根のうまみを引き立てる。
 牡丹鱧と蓮根饅頭は、ともに関西料理の定番である。日本料理屋を食べ歩くお客様の中には、「この季節はどこへ行ってもハモのお椀だ」と嘆く方もいる。しかし、定番料理こそが、料理人の腕の見せどころでもあるのだ。
 ただ厳密に言わせていただくと、一つとして同じ牡丹鱧煮物椀などはないはず。ならばいっそ各店を食べ比べ、自分にとっての最高の椀を出す店を探してみてはいかがか? 
 この夏も料理人たちは、一夏一番の誉れのために、技を磨いているのである。
 蓮根饅頭もしかり。葛を入れて練り込まずに軽く練って型に流し入れ、蒸し器で蒸して仕上げる方法もあるが、夏に汗をかきながら、渾身の力を込めて練り上げたものは、やはり一味違う。
 そして、一味違えば大きく違うのが、日本料理の椀の世界観なのだ。

元麻布「かんだ」
東京都港区元麻布3-6-34 カーム元麻布1F TEL03-5786-0150
PAGE...1|2
LINK
GOURMET
神田裕行の椀五十選 第1回
>>2014.1.10 update
GOURMET
椀味不只淡 第15回
>>2013.12.16 update
GOURMET
椀味不只淡 第12回
>>2013.12.18 update
GOURMET
椀味不只淡 第9回
>>2013.12.24 update
GOURMET
椀味不只淡 第3回
>>2013.12.24 update

記事カテゴリー