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鴨つくねの治部煮
鴨の切り身の下のつくねは、もも肉と内臓をたたいたものに、豆腐とみそを加えて練る。
あくまでふんわりとした触感に。
椀味不只淡 第6回
文・神田裕行(元麻布「かんだ」店主)
Photo Masahiro Goda
神田裕行の椀五十選 第6回
 11月はジビエの季節である。
 フランスにいたころ、一度だけ鴨を撃ちに行った。その時に、さばいたばかりの鴨を、散弾銃の弾をよけながら食べたのだが、その味わいは、それまでに食べたことのない濃い血の味がして、あまり好きではない、と感じた。
 日本では、古くから鶴や鴨が食べられていたらしく、冬にシベリア大陸から飛んで来た鴨がたどり着く金沢で生まれた料理が、鴨の治部煮だといわれている。金沢の代表的な郷土料理である。
 治部煮の基本的な作り方は、鴨肉をそいで葛粉をはたき、出汁にくぐらせて、しょうゆで味を調え(当時はみそで味をつけたのだろうか?)、すだれ麩(金沢特産)や野菜を添える。この調理法には、古人の知恵が生きている。
 天然の鴨肉は火が入ると、非常に固くなる。これは加熱によって、タンパク質が疑固する際に収縮し、身中の水分(血液)が出てしまうことによって起こる現象なのだが、切った肉の断面に葛粉(片栗でも可)をはたくことで、表面に葛の膜ができて、血の流出を防ぐ役目を果たす。結果、ジューシーな煮上がりになるというわけだ。
 もう一つの役目は、汁にとろみをつけること。あえて、片栗を溶かなくても、汁には自然ととろみがつくため、ひと手間不要となる。
 このようにして、肉の内側に血を閉じ込めるものの、和食としてはやや野趣に富み過ぎているので、柚子と松茸の香りで和らげ、「かんだ」の料理とした。
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