
椀味不只淡 第7回
文・神田裕行(元麻布「かんだ」店主)
Photo Masahiro Goda
Photo Masahiro Goda
神田裕行の椀五十選 第7回
冬は根を食べる季節である。
春は芽。こごみ、うど、わらび、たけのこ……土から太陽に向かって真っすぐに伸びる芽たち。夏はなりもの。きゅうりや、トマト、瓜、すいかなどがおいしくなる。秋は実。栗に銀杏、柿や梨もおいしくなる。そして冬。太陽は力を無くし、土の中で作物が育まれる。日本の野菜は、こうして太陽と大地の相互関係の中で旬を移ろい、私たちはその旬を愛でてきた。
冬の大地が育てるのは、蓮根、蕪、牛蒡、大根、人参、海老芋たちだ。同じころ、冷たい海の中で魚たちが脂を蓄え始めるように、冷たい大地の中で、これらの野菜もまた甘みを増してくる。その中でも、最も滋味深いものはやはり蓮根である。そして、全国に蓮根自慢の里は多いけれども、石川県の加賀蓮根が一等であると思う。夏に味わうシャキシャキとした蓮根ではなく、むっちりと甘く糸を引く、旬の蓮根は冬野菜の王者にふさわしい。
すり下ろし。軽く水気を切るが、この水分は捨てずにボウルに取っておく。ボウルを半日静かに置いて、底に蓮根のでんぷんがたまるのを待つ。上澄みを捨て、固まったそれを取り出して、水気を切った下ろし蓮根に加えて蒸し上げる。これが蓮根餅の基本的な作り方だが、加賀蓮根はこのでんぷんの質と量が比類ないのだ。「かんだ」では、これに深煎りの胡麻と卵の素を加えて蓮根餅とする。
これを店では吸い物出汁で召し上がっていただくが、今回は白みそ仕立てとした。白みそは冬の味。夏には赤みその酸味が暑気を払ってくれるが、寒い冬の夜には白みその甘く穏やかな味が欲しくなる。
春は芽。こごみ、うど、わらび、たけのこ……土から太陽に向かって真っすぐに伸びる芽たち。夏はなりもの。きゅうりや、トマト、瓜、すいかなどがおいしくなる。秋は実。栗に銀杏、柿や梨もおいしくなる。そして冬。太陽は力を無くし、土の中で作物が育まれる。日本の野菜は、こうして太陽と大地の相互関係の中で旬を移ろい、私たちはその旬を愛でてきた。
冬の大地が育てるのは、蓮根、蕪、牛蒡、大根、人参、海老芋たちだ。同じころ、冷たい海の中で魚たちが脂を蓄え始めるように、冷たい大地の中で、これらの野菜もまた甘みを増してくる。その中でも、最も滋味深いものはやはり蓮根である。そして、全国に蓮根自慢の里は多いけれども、石川県の加賀蓮根が一等であると思う。夏に味わうシャキシャキとした蓮根ではなく、むっちりと甘く糸を引く、旬の蓮根は冬野菜の王者にふさわしい。
すり下ろし。軽く水気を切るが、この水分は捨てずにボウルに取っておく。ボウルを半日静かに置いて、底に蓮根のでんぷんがたまるのを待つ。上澄みを捨て、固まったそれを取り出して、水気を切った下ろし蓮根に加えて蒸し上げる。これが蓮根餅の基本的な作り方だが、加賀蓮根はこのでんぷんの質と量が比類ないのだ。「かんだ」では、これに深煎りの胡麻と卵の素を加えて蓮根餅とする。
これを店では吸い物出汁で召し上がっていただくが、今回は白みそ仕立てとした。白みそは冬の味。夏には赤みその酸味が暑気を払ってくれるが、寒い冬の夜には白みその甘く穏やかな味が欲しくなる。


(上)加賀蓮根餅雪輪蓮根添え白みそ仕立て
蓮根餅は蒸したてが命だ。
一度蒸して仕込んだものを、温め直すと似て非なるものになってしまう。
(下)聖護院蕪蒸し松葉ガニあんかけ
汁は少し濃いめのかつお出汁。味付けは塩と酒のみ。
葛引きはあくまで軽く、口の中でふんわり溶ける蕪の甘さこそごちそうだ。
蓮根餅は蒸したてが命だ。
一度蒸して仕込んだものを、温め直すと似て非なるものになってしまう。
(下)聖護院蕪蒸し松葉ガニあんかけ
汁は少し濃いめのかつお出汁。味付けは塩と酒のみ。
葛引きはあくまで軽く、口の中でふんわり溶ける蕪の甘さこそごちそうだ。