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(上から)タパスではボリュームが歓喜の源。マドリッドの四方山話は井戸端でなくタパスの傍らから始まる。ギリシャ人がもたらしたオリーブオイルと地中海産ハダカイワシ。『邂逅』という概念はマドリッドの食文化のためにこそ存在する。
 さりとて、1980年代からマドリッドのガストロノミー界を席巻したこのムーブメントも、玉石混淆の状況であったことは否めない。当初、フランスで修業したバスク料理人たちが鎹となり、新風を送り込んだことは確かだ。しかし、同時に様々な近隣諸国の影響が堰を切ったようにマドリッドへと流入したのもこの時代だった。ナポリで修業した料理人たちはナポリ様式を前面に打ち出し、フィレンツェ帰りはフィレンツェ様式を…といった具合にである。のちにこれらすべてがコシナ・ヌエバとして認知されるにいたると、その定義そのものが観念的となり、コシナ・ヌエバ=スペイン料理+エキゾティズムという低俗な誤謬まで生むことになった。結果論をいえば、コシナ・ヌエバという潮流は、来る本流―コシナ・アルタへと注ぐ支流だったのかもしれない。スペインのガストロノミーがコシナ・ヌエバという受け手側から、コシナ・アルタという世界に向けた発信源として、新たな局面を迎えるのは1990年代になってからのことだ。コシナ・アルタ―究極の料理と命名された様式は、スパニッシュ・ガストロノミーに初めてもたらされた『現代』であった。それはエル・ブジというレストラン、そしてシェフ、フェラン・アドリアが世界に投げかけた衝撃に端を発する。アドリアは伝統料理を調理法自体から解体し、再構築していった。マイナス190℃という液化窒素での瞬間冷凍、アルギン酸ナトリウムや塩化カルシウムが創りだす新たな果実の味覚、サイフォンによって送り込まれた空気は伝統料理を変身させ、スペインのガストロノミーは世界の ガストロノミーの前衛に変質していった。
 食=味覚という、味蕾や鼻孔がつかさどる領域にもち込まれた亀甲式のマジック。今日もまた、伝統料理の破壊と再構築から新たなコシナ・アルタが生まれている。連綿と続くマドリッドの食文化を継承しながら。
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