
椀味不只淡 第11回
文・神田裕行(元麻布「かんだ」店主)
Photo Masahiro Goda
Photo Masahiro Goda
神田裕行の椀五十選 第11回
関東ではアイナメ、関西ではアブラメ、北海道ではアブラコと呼ばれるこのカサゴ目アイナメ科の魚は、春の日差しが海を暖め始めるとおいしくなる。子どもの頃、テトラポッドの隙間に釣り糸を垂らして、茶色い初魚を釣り上げたときはうれしかった。あれは確か、唐揚げにでもして食べたのか? 今となっては思い出せない。
アイナメは幼魚時を磯場で暮らし、成魚となってから沖へ出て成長し、2年程経って約50㎝に成長すると食べごろになる。
春から初夏にかけての季節の移ろいを映すこの魚を、葛たたきにして椀盛りとする。かすかに香る磯の香りは幼魚時代の残り香。木の芽の香りで相殺するのが定法だ。今回は木の芽味噌仕立てとしてみた。
味噌椀は基本的に総菜であり料理屋の椀としては、格が一つ落ちる気もするが、白味噌仕立てに木の芽と青寄せをすり込み初夏の香りを楽しんでいただく。あしらいはウドの“寄り切り"。爽快な味わいは味噌椀の重さを両断してくれる。
カキの旬が5月だと教わったのは、つい1年前のことだ。広島の大黒神島という無人の島で生活排水の汚れを全く受けないノロウイルス“0"のカキを作っている三保さんは「広島に来るなら、4月か5月においで。その頃が一番うまいけん」と誘ってくれた。スタッフと息子を連れて出掛けた瀬戸内の離島は、はるか海底が透けて見える海に囲まれていた。
アイナメは幼魚時を磯場で暮らし、成魚となってから沖へ出て成長し、2年程経って約50㎝に成長すると食べごろになる。
春から初夏にかけての季節の移ろいを映すこの魚を、葛たたきにして椀盛りとする。かすかに香る磯の香りは幼魚時代の残り香。木の芽の香りで相殺するのが定法だ。今回は木の芽味噌仕立てとしてみた。
味噌椀は基本的に総菜であり料理屋の椀としては、格が一つ落ちる気もするが、白味噌仕立てに木の芽と青寄せをすり込み初夏の香りを楽しんでいただく。あしらいはウドの“寄り切り"。爽快な味わいは味噌椀の重さを両断してくれる。
カキの旬が5月だと教わったのは、つい1年前のことだ。広島の大黒神島という無人の島で生活排水の汚れを全く受けないノロウイルス“0"のカキを作っている三保さんは「広島に来るなら、4月か5月においで。その頃が一番うまいけん」と誘ってくれた。スタッフと息子を連れて出掛けた瀬戸内の離島は、はるか海底が透けて見える海に囲まれていた。


(左)アブラメの木の芽味噌椀
白味噌100g程度に青寄せ(ホウレンソウなどの青菜を湯がいて裏ごししたもの)、木の芽を入れてすり鉢でよく混ぜた汁は、まるで抹茶のような美しい色。その味わいは優しい。
(右)寄せカキ椀シントリ菜添え
小さなカキは出汁を張っただけでは崩れない程度に葛でふんわりとまとめるのがポイントだ。箸を入れれば、カキがすんなりと離れて一つずつ食べられるのが理想的。
白味噌100g程度に青寄せ(ホウレンソウなどの青菜を湯がいて裏ごししたもの)、木の芽を入れてすり鉢でよく混ぜた汁は、まるで抹茶のような美しい色。その味わいは優しい。
(右)寄せカキ椀シントリ菜添え
小さなカキは出汁を張っただけでは崩れない程度に葛でふんわりとまとめるのがポイントだ。箸を入れれば、カキがすんなりと離れて一つずつ食べられるのが理想的。