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「シャリだの、ガリだの、ムラサキ、アガリなどと、通ぶる客に真の鮨好きはいないね」
 三つ星を取り続けている名人の言葉だ。それにしても人はなぜ、鮨屋のカウンター席に座ると、殊更に気
張るのだろうか。粋がって見せることの不思議。
「大おお間まだろう? だと思ったよ。何キロ? 意外に小さいんだね。で、何日くらい? もう少し寝かせてもいいんじゃない? 旨うまみが行き渡ると思うよ」
 河岸でのやり取りならいざ知らず。
一枚板のカウンターを挟んで、主人を前にし、他の客もいる中で語るには、ふさわしくない言葉だ。鮨屋に限らず、近頃は、客が店との結界を越えてしまっているのではないか。
「大間で揚がった鮪まぐろは旨いが、必ずしもベストではない。季節によって、港によって、それぞれ異なる旨さを持つのが鮪の醍だい醐ご味み。だがそれを瞬時に味わい分けるのは容た やす易いことではない」。長年にわたって鮪を見続けてきた仲買人の言葉だ。
「食語の心」と題して、これまで繰り返し書いてきたが、食べる側の心得として、味わう主観だけに徹した方がいい。料理を作る側の領分を侵さないことで「食語」はうんと美しく、そして愉たのしくなる。
 さて江戸前鮨。江戸前と言うくらいだから、当然ながら本場は江戸。銀座を筆頭に、都内には名だたる鮨屋が軒を並べ、伝統を守りながらも進化を続けている。そんな鮨屋を訪ね歩くのもいいが、僕のお奨めは地方の江戸前鮨。
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