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クエの酒蒸し
海底に潜むクエは台風の波にもまれて姿を現す。今年は台風が多く、クエにとっても受難の年だった。塩をして酒を振り、蒸すだけで濃厚なスープがにじみ出る。

これはマルセル・プルーストが半生をかけて執筆した、彼の代表作である長編小説『失われた時を求めて』の中で、著者本人を投影した主人公が、マドレーヌを熱い紅茶に浸して食べた時に、幼少期の同じ体験を思い出し、それに誘発されて、その当時の思い出がよみがえってくるという体験談だ。私が「味覚の一週間」で教えた小学生たちにとって、きっと初めてであっただろう本物のプロの一番出汁の味わいが「プルーストのマドレーヌ」になったら、こんなにうれしいことはない。
 もちろん、日々の中で毎日、出汁をひくことなど、我が家でもあり得ないというのが現代の世情だし、利便性の高い粉末の出汁を否定するわけでもないが、本物のかつお節の生産者や本枯節を作る技術者が年々少なくなって、未来の日本で「失われたかつお節文化を求めて」といわれる日が来ないようにしたい。
 そんな願いを胸に、今年も「味覚の一週間」で、たくさんの子供たちに向き合いたいと思う。

元麻布「かんだ」
東京都港区元麻布3-6-34 カーム元麻布1F  TEL03-5786-0150
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