

食語の心 第4回
日本人と鮎
日本人と鮎
Photo Masahiro Goda
作家 柏井壽
作家 柏井壽
鮎あゆ。それはただ川魚の一種であるに留とどまらず、日本人にとって特別な意味を持つ魚。海の魚で言えば鯛たいに匹敵するだろうか。いや、それ以上に深い意味合いを秘めているのかもしれない。
祝の席で鯛を飾るのは、希少で高価だということに加え、〈目出鯛〉という語呂合わせもある。それはつまり言葉の持つ力というか、もっと言えば言霊の神性によるところもあったりする。鮎もそれと同じく、魚名そのものに神性を有している。
語源をたどり、皇室との深い関わり、さらにはその唯一無二とも言える漁法まで。食だけでなく、日本文化の奥底深くに漂う、鮎の不思議を探ってみたい。
まずはその語源から。
鮎。よくよく考えれば、不思議な語感であり、面妖な文字である。
寿司屋の湯ゆ呑のみを思い出すまでもなく、魚偏の付いた魚名は、大方がその字面から姿形を思い浮かべることができる。
魚偏に青と書いて鯖さば。見た目そのまま。魚偏に弱いと書いて鰯いわし。なるほどそんな風な魚だ。雪と書けば鱈たら。雪がしんしんと降りしきる夜、囲炉裏の自在に掛けた鉄鍋。ふっくらと煮える鱈鍋が目に浮かぶ。平と書けば鮃ひらめ。これも見た通り。ときて、さて鮎。魚偏に占うと書く。何を占ったのか。どうして占ったのか。
祝の席で鯛を飾るのは、希少で高価だということに加え、〈目出鯛〉という語呂合わせもある。それはつまり言葉の持つ力というか、もっと言えば言霊の神性によるところもあったりする。鮎もそれと同じく、魚名そのものに神性を有している。
語源をたどり、皇室との深い関わり、さらにはその唯一無二とも言える漁法まで。食だけでなく、日本文化の奥底深くに漂う、鮎の不思議を探ってみたい。
まずはその語源から。
鮎。よくよく考えれば、不思議な語感であり、面妖な文字である。
寿司屋の湯ゆ呑のみを思い出すまでもなく、魚偏の付いた魚名は、大方がその字面から姿形を思い浮かべることができる。
魚偏に青と書いて鯖さば。見た目そのまま。魚偏に弱いと書いて鰯いわし。なるほどそんな風な魚だ。雪と書けば鱈たら。雪がしんしんと降りしきる夜、囲炉裏の自在に掛けた鉄鍋。ふっくらと煮える鱈鍋が目に浮かぶ。平と書けば鮃ひらめ。これも見た通り。ときて、さて鮎。魚偏に占うと書く。何を占ったのか。どうして占ったのか。