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――瓜食めば子ども思ほゆ 栗食めばまして偲はゆ いづくより来りしものぞ 眼交に もとなかかりて、安寐し寝さぬ――
 山上憶良の歌だろうか。ここで〈食む〉は〈食べる〉を、より具体的に〈蝴凾゙〉ことを主として、言い表しているように思える。瓜と栗。韻を踏みつつ、その歯応えの違いを巧く対比させる。〈食べる〉よりもプリミティブな、生きるための営みを〈食む〉という言葉で言い表している。
 瓜はパキッと蝴凾ン切れるが、栗は蝴凾゙ほどに歯に纏わり付き、瓜のような青臭さではなく、滋味深い甘みを舌に残す。 旨いものを子供に食べさせてやりたいという親心を切々と詠う。
 さて、その〈食む〉。実は京都の夏に欠かせない食べ物と、密接なつながりを持つ言葉なのである。京都の夏の風物詩とも言える、あの食である。次回はその話をしよう。

かしわい・ひさし
1952年京都市生まれ。京都市北区で歯科医院を開業する傍ら、京都関連の本や旅行エッセイなどを数多く執筆。2008年に柏木圭一郎の名で作家デビュー。京都を舞台にしたミステリー『名探偵・星井裕の事件簿』シリーズ(双葉文庫)はテレビドラマにもなり好評刊行中。『京都紫野 菓匠の殺人』(小学館文庫)、『おひとり京都の愉しみ』(光文社新書)など著書多数。
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