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あるいは、琵琶湖の稚魚を、日本中の河川に放流し、それが育つのを待つ。
 そんな決まり事がある「食」が他にあるだろうか。つまり鮎は、ただ食材という観点だけでなく、古くから伝わる仕来りやマナーに則って、収穫される魚という意味で、他に類を見ない、極めて日本的な食材なのである。
 そして何より、鮎という魚が他と異なるのは、語るべきことが山ほどあるということ。
 例えば名所。日本各地には鮎の名所と呼ぶべき川があり、お国自慢よろしく、どの川もが日本一を謳う。我が川の鮎が一番旨い。
 あるいは、その質や大きさ。天然物に限ると断じる食通が居る一方で、巧く養殖した鮎の方が旨いと言い張る向きもある。小ぶりがいい、たっぷり大きい方がいい、などなど。
 さらには焼き方から食べ方に至るまで、詳細にわたって魯山人も書き残している。鮎には語るべきことが山のようにあり、独特の〈食語〉もある。
 まず語られるのは、天然か養殖か。しかし近頃は、京都の割烹辺りでも、〈半天〉という呼び名の養殖モノが幅を利かせている。
 〈半天〉とは、読んで字のごとく。半分天然という意。
 養殖した鮎を、適度な寸法に育ったところで、河川の水を張った生簀に放ち、川魚らしい香りを付ける。最近では苔の生えた石を沈め、それを餌にさせて、より一層、天然の味に近付ける。
 少し太めの親指ほどの厚み。中指を幾らか超える長さの鮎。完全な天然モノでそろえるのは難しいが〈半天〉ならそれがかなうというわけだ。
 この大きさなら、じっくり焼いて骨まで火を通せば、頭からガブリとやれる。面倒な骨抜きなど不要だ。
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