2010年初夏。全仏オープンテニス開催中。会場内に設置されたリシャール・ミルのレセプションルームに、ラファエル・ナダルが登場した。集ったプレス関係者の視線は、彼の右腕に寄り添う、誕生したばかりのRM 027に釘付け。と、おもむろにラファが時計を外して、こちらにポンと投げてよこした。相手は、精巧なトゥールビヨンを備えた超高級メカニカルウオッチ。慌てて出した手のひらに、羽のように軽いオブジェがふわりと舞い降りた。自分の重量感覚が狂ったかと感じる非現実的な軽さ。思わず目を近づけてのぞき込むと、透明なガラスの向こうに、トゥールビヨンが息づく実に美しく繊細なムーブメントがあった。