





(上左)吸蜜にやってきたクモガタヒョウモン。(上中)葉の表に葉脈が目立ち、どちらが表か裏か戸惑うリョウメンシダ。(上右)弱ってきた木の表面にたくさん発生するツリガネタケ。(下左)森の外へ日光を求めて大きく枝を伸ばす木もある。手前はハウチワカエデ。(下中)古い木にはコケがついたり、ツタが絡まったりと、それぞれが共生して森が成立する。 (下右)花びらが「大」の文字に見えるダイモンジソウ。
白神山地は秋田、青森の県境を中心に広がり、その広さは約13万haといわれている。このうち、世界自然遺産地域に指定されているのが約1万7000ha。その核心地域は森林生態系の維持のため、入山の場合、
青森県側では届け出の上、指定されたルートに限り、秋田県側では調査や報道の場合を除き、入山が禁じられている。周囲の緩衝地域は一般の入山が可能で、散策をする人も多い。
秋田県側の八峰(はっぽう)町の留山(とめやま)〜薬師山散策コースを歩いていると、ブナの幹にクマの爪痕が残されていた。ツキノワグマはブナの実が大好物で、落ちている実を拾うだけにとどまらず、木に登って枝を自分の口に引き寄せ、そこになった実をごっそりと食べるのだそうだ。食べ終えた枝は、体の下に敷いていわゆる「クマ棚」と呼ばれる座布団にする。白神山地にはイノシシはいないが、ツキノワグマを始めニホンカモシカ、ニホンザルなど中・大型の哺乳類が14種、両生類が13種、爬虫類7種、鳥類90種前後確認されている。とはいえ、日中に一般向けのルートを歩いていて動物たちに遭うことはめったにない。近年は白神山地の麓でも地球温暖化の影響かニホンジカが見られるようになり、森の生態系に影響を与えないか心配されているが、本来、森が正常に機能していれば動物たちはひっそりと身を潜めて生きている。森にあるのは、彼らの気配と、姿の見えない鳥たちのさえずりだ。もちろん、植物なら日中でもかわいらしい姿を見せてくれる。白神山地では、サルメンエビネやヤシャビシャクなどの絶滅危惧種や、ここにしか生息しない貴重な固有種であるツガルミセバヤも見ることができる。
開発を免れた精霊の森
白神山地周辺でも、古くから森は人々の生活を支えてきた。戦前までは青森県側の森が薪の一大生産地となり、秋田県側では鉱山に使う木材として、また製銅精錬用木炭として森の木々が利用された。当時、白神は人が入ることのない奥山であり、ブナは資源としての価値が乏しいため、森に入るのはマタギくらいのものだったという。戦後、建築材やパルプ材の需要が増し、天然杉伐採やブナ林が拡大造林の対象となったとき、白神の奥地にも木材を運ぶ森林軌道が延びていった。しかし、白神山地を中心に秋田と青森をつなぐ青秋林道計画が発表されると、人々の間に論争が巻き起こり、白神山地の自然を守りながら活用していくことの重要さが訴えられる。その理由の一つとして、白神山地に国の天然記念物であり、環境省のレッドデータブックで危急種に指定されている日本最大のキツツキ、クマゲラが生息していることが挙げられたという。結局、青秋林道計画は森の核心部に入ることなく中断された。こうして白神山地は開発を免れ、“ 手つかずの森"として、のちの世界自然遺産登録に至ったのである。
青森県側では届け出の上、指定されたルートに限り、秋田県側では調査や報道の場合を除き、入山が禁じられている。周囲の緩衝地域は一般の入山が可能で、散策をする人も多い。
秋田県側の八峰(はっぽう)町の留山(とめやま)〜薬師山散策コースを歩いていると、ブナの幹にクマの爪痕が残されていた。ツキノワグマはブナの実が大好物で、落ちている実を拾うだけにとどまらず、木に登って枝を自分の口に引き寄せ、そこになった実をごっそりと食べるのだそうだ。食べ終えた枝は、体の下に敷いていわゆる「クマ棚」と呼ばれる座布団にする。白神山地にはイノシシはいないが、ツキノワグマを始めニホンカモシカ、ニホンザルなど中・大型の哺乳類が14種、両生類が13種、爬虫類7種、鳥類90種前後確認されている。とはいえ、日中に一般向けのルートを歩いていて動物たちに遭うことはめったにない。近年は白神山地の麓でも地球温暖化の影響かニホンジカが見られるようになり、森の生態系に影響を与えないか心配されているが、本来、森が正常に機能していれば動物たちはひっそりと身を潜めて生きている。森にあるのは、彼らの気配と、姿の見えない鳥たちのさえずりだ。もちろん、植物なら日中でもかわいらしい姿を見せてくれる。白神山地では、サルメンエビネやヤシャビシャクなどの絶滅危惧種や、ここにしか生息しない貴重な固有種であるツガルミセバヤも見ることができる。
開発を免れた精霊の森
白神山地周辺でも、古くから森は人々の生活を支えてきた。戦前までは青森県側の森が薪の一大生産地となり、秋田県側では鉱山に使う木材として、また製銅精錬用木炭として森の木々が利用された。当時、白神は人が入ることのない奥山であり、ブナは資源としての価値が乏しいため、森に入るのはマタギくらいのものだったという。戦後、建築材やパルプ材の需要が増し、天然杉伐採やブナ林が拡大造林の対象となったとき、白神の奥地にも木材を運ぶ森林軌道が延びていった。しかし、白神山地を中心に秋田と青森をつなぐ青秋林道計画が発表されると、人々の間に論争が巻き起こり、白神山地の自然を守りながら活用していくことの重要さが訴えられる。その理由の一つとして、白神山地に国の天然記念物であり、環境省のレッドデータブックで危急種に指定されている日本最大のキツツキ、クマゲラが生息していることが挙げられたという。結局、青秋林道計画は森の核心部に入ることなく中断された。こうして白神山地は開発を免れ、“ 手つかずの森"として、のちの世界自然遺産登録に至ったのである。