
有人潜水調査船「しんかい6500」は、現在、世界一周深海研究航海プロジェクトが進行中のため、JAMSTEC横須賀本部にあることも少ない。運良く入船していた「しんかい6500」前で「僕は『しんかい2000』の方をたくさん乗ったな」とポツリ。深い所には生物があまりいないからだそう。
JAMSTEC www.jamstec.go.jp
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愛すべき未知なる深海
Photo TONY TANIUCHI Text Rie Nakajima
Photo TONY TANIUCHI Text Rie Nakajima
海洋研究開発機構 海洋生物多様性研究プログラム
深海生態系研究チーム チームリーダー
藤倉克則
もともとは淡水生物が専門。しかし、大学院在学中に就職先を決めるとき、「めったに行けない深海に行けるよ」という誘いに引かれて海洋研究開発機構(JAMSTEC、旧・海洋科学技術センター)に入った。JAMSTECは、現在、世界で2番目に深く潜れる有人潜水調査船「しんかい6500」を所有している。
「実際に潜水調査船に乗るのは怖いんですけどね。潜り始めると大丈夫なのですが、乗り込むときは今でも怖いですね(笑)」
現在は、海洋生物多様性研究プログラムのチームリーダーを務める。長年、調査を続けながら、深海での生命の営みに関心を抱いてきた。
「暗く冷たい、人間から見たら異質な環境でありながら、深海には非常に豊富な種類の生物が工夫をしてすんでいます。全長18mのダイオウイカのように巨大化するのもその一つで、比率的にはダイオウイカよりもっと巨大化しているものもいる。例えば、私たちが星の砂として知っている有孔虫は単細胞生物で、1㎜ほどの大きさですが、深海では10㎝にもなってしまう。単細胞生物で10㎝になってしまうなんて、陸上では考えられないことですよね。ダンゴムシのようなダイオウグソクムシも、深海では体長50㎝くらいになります。彼らが巨大化したのは、体が大きいほうが食べられにくいからだと考えられています」
生物たちにとっては、単に生き抜くことだけでなく、自分の子孫をどう残すかが使命とされている。
「有名なのはチョウチンアンコウの仲間の繁殖です。深海では個体数が少ないため、出合いも少なくなる。だからパートナーを見つけたら逃がしたくないんですよ。そこで、オスはメスを見付けたら、常に寄り添うことに。寄り添うだけでなく、かみついて、最後にはメスと血管まで融合して、メスの体の一部になります。メスはオスよりずっと体が大きいので、オスはメスの体にヒレのように時にたくさんくっついていて、精子を受け渡すだけの役割をします」
こういう話を聞くと、深海生物は人間の想像を超えた、特異な生物だと考えてしまう。だが、深海には浅瀬の生物と変わらない、“普通の生物"もたくさんすんでいる。
「それどころか、普段から深海生物を食べていますよ。タラ類などを使用するフィッシュバーガー、カラスガレイを使用する回転寿司のエンガワ、それからズワイガニも深海生物ですよね。私たちは知らないうちに、深海の恩恵を受けているのです」