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マッコウクジラは、日中は水深800〜1000mに潜ってエサを探す。となると、そこに彼らのエサとなるダイオウイカがいるはずだ。
 「それまで、その深度でダイオウイカが目撃されたことはありませんでした。有人潜水艇が深海に光をまき散らせば、ダイオウイカがノコノコ出てくるとは思えません。そこでなるべく深海の環境を乱さない形でのアプローチを考えました」
 そんなとき、知り合いの研究者がアザラシに取り付けて生態を知るための小型カメラ・ロガーを開発した。そのロガーを借り、小笠原で漁師が使うたて縄の下に取り付けた。カメラは小さく、光はストロボのライト一発なので生物を驚かさない。
 2002年から始めたところ、2004年に世界で初めてダイオウイカの静止画の撮影に成功。その快挙を論文にまとめ、一躍、世界中から注目された。続いて2006年には、ダイオウイカを生きたまま釣り上げ、ビデオに撮って配信。世界で初めて、ダイオウイカの生きて動いている姿を撮影したのだ。しかし、これは海面近くに上がってきたダイオウイカ。どうしても、深海で泳ぐ姿が見たい。2009年、ついに大型プロジェクトが立ち上げられた。
 「それまでの調査でダイオウイカの生息域が分かっていた小笠原で、実際に深海でダイオウイカを撮影しようということになったのです。計画は2012年に実行され、深海の発光生物の光を真似たり、ダイオウイカの肉をミキサーで砕きジュースにして海中に流しておびき寄せたりする作戦も試みられました。私はダイオウイカの眼には感じられない赤色のライトをつけ、ソデイカを餌としておびき出す作戦を試したところ、ついに水深630mの深海でダイオウイカに出合うことができました」
 金色に光るダイオウイカの映像は、文字通り世界を驚愕させた。しかし、窪寺氏とダイオウイカの関係は、これからも続いていく。
 「ダイオウイカは浅い海に生息するイカの特徴を残していて、今まさに、深海に適応しつつあると考えられます。発光器を持っていないのもそのためです。ダイオウイカは深海であまり研究が進んでいないトワイライトゾーンの生物の中で、最も興味深い存在です。その意味で、ダイオウイカを知ることは、深海を知ることにもつながるのです」
 23分間の映像を通して、ようやく人類の前に姿を現したダイオウイカ。その衝撃が、人々をますます深海の神秘の闇へと引き付けている。
くぼでら・つねみ
1951年東京生まれ。北海道大学大学院修了。水産学博士。大学院在学中からイカ・タコ類の研究を始め、1984年から国立科学博物館に勤務。2012年世界で初めて生きたダイオウイカの映像を撮影した。現在、国立科学博物館の標本資料センター コレクションディレクターと分子生物多様性研究資料センター長を兼務する。
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