
日本一の標本数を誇る、国立科学博物館の自然史標本棟・液浸標本庫で、ダイオウイカの腕先端部の標本を手にする窪寺氏。
国立科学博物館 www.kahaku.go.jp
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ダイオウイカに選ばれた男
Photo TONY TANIUCHI Text Rie Nakajima
Photo TONY TANIUCHI Text Rie Nakajima
国立科学博物館 標本資料センター
コレクションディレクター
窪寺恒己
2012年夏、NHKとディスカバリーチャンネルとのジョイント・プロジェクトに参加し、世界で初めて深海で生きているダイオウイカの映像撮影に成功した。
「水深1000mまで潜れる最新鋭の潜水艇の先に、ダイオウイカが好むソデイカをラインでつなぎ5mほど離して待ったのです。ソデイカを食べに現れたダイオウイカは、美しかった。メタリックな銀色や金色に光り輝いていました」
世界広しといえども、これだけダイオウイカに遭遇するチャンスに恵まれた人物はいない。イカ・タコの専門家として研究を続けて約40年。長年の夢がかない、目の前で生きたダイオウイカを目撃し、23分間もその姿を撮影することができた喜びは、海の深さのように計り知れない。
窪寺氏がダイオウイカを追い始めたのは15年ほど前。日本の周辺海域に生息するイカ・タコを調査し、分類する仕事を担っていたことから、ダイオウイカの標本を手に入れた。
「いくつかの標本を見比べると、どうもそれぞれ外部形態が違う。それで、3種くらいに分類されるのではないかと思い、研究をスタートしました。しかし、そのうちに海外の研究者が、ダイオウイカは種内変異が大きく、外見が違っていても全て同じ種であると発表したのです」
こうしてダイオウイカの分類研究はストップ。しかし一方で、その謎に満ちた生態に、むくむくと興味が湧いてきたという。
「当時、ダイオウイカが一体どこにいて、どんな生活をしているか。全く分かっていませんでした」
氏が考えたのは、どうすれば生きたダイオウイカにアクセスできるか、ということだ。それまで、死んで海岸に打ちあげられたものや、瀕死の状態で海面に漂っているものしか発見されたことがなかったのだ。
「一つのアプローチが、マッコウクジラの胃内容の調査でした。調べてみると、マッコウクジラの胃からしばしばダイオウイカのビーク(顎板)が出てきたのです」