基本を学び伝統を学び
そのうえで全てを忘れる
そのうえで全てを忘れる
石出 家造りも庭造りにも、基本はあります。特に日本家屋はそうです。その最たるものは茶室ですが。
平井 私たちもお茶は習います。茶室というのは設計を知っているだけではできないでしょう。
石出 できませんね、お茶の世界の深さを知らないと。庭も同じことでしょうね。
平井 全くです。何でもそうですけど、基本を学んで、伝統を学んで、そこからが自分のものづくりじゃないですか。
石出 そうですね。基本、伝統を学んだうえで、どう自分らしさを表現していくか。伝統的な数寄屋造りを勉強しましたが、しかし私は北海道で事業を始めましたから、数寄屋造りを2m積もった雪に耐えられるように、構造計算しますとどうしても梁はりや柱が太くなる。薄く見せないと数寄屋造りにならない。そういう意味で苦労しましたね。でも現代の木造建築には、この丈夫さはすごく大切な要素だと思うんです。
平井 地震に強いのですね。
石出 私は50年、100 年と長く住み続けられる家、家族に受け継がれていく家を創りたいと思っています。そのためにも、この丈夫さは欠かせない。大切な家族を守る家ですから。数寄屋造りの美しさと精神は大切に受け継ぐべきものですが、それが弱いものになると時代に受け継がれていけません。
平井 基本と伝統は、学んだら一度全部捨てないとダメだと思います。庭の世界では灯とう篭ろうとつくばい、垣根、この三つにいまだにこだわる。もちろんお客様が入れたいとおっしゃるなら私もやります。しかし「これは入れて当然」という考えを捨てなければ、日本の庭はダメになる。現代の人々はもっといろいろな庭の可能性を求めているのに、悪い意味で基本に忠実、伝統を守っていては、「庭は要らない」と言われてしまうでしょう。
石出 良い意味でのこだわりですね。基本も伝統も知らないで、自分の発想だけでやっていこうというのは、必ず行き詰まりますが、基本や伝統に縛られてその模倣だけでは時代を超える進化が無い。
平井 そうですね。


太い柱梁で組まれた HOP の家。使われる材料は全て国産の無垢材。テラスに面したガラスの大開口部から庭を見ると、室内との一体感が高められている。(H邸・札幌)