

グーテンベルクの36行の聖書といった貴重な資料も多数展示する同印刷所は、2001年に記録文書が世界の記憶遺産、2005年は家屋・工房・博物館複合体が文化遺産に認定。知を伝播する新しいメディアとして印刷産業が順調に発展を遂げ、出版社も兼ねる欧州きっての文化サロンとなった。政治家や芸術家が集ったとされ、中でもルーベンスは印刷所の公式下絵画家も務めるほどに密接な関係を築いたという。現在も博物館内の大客間には、ルーベンスによる油絵の数々が往時を偲ぶように展示されている。
プランタン=モレトゥス印刷博物館 Vrijdagmarkt 22-23 2000 TEL +32(0)3 221 14 50
プランタン=モレトゥス印刷博物館 Vrijdagmarkt 22-23 2000 TEL +32(0)3 221 14 50
着々と自治権を拡大していったネーデルラント他州とは対照的に、スペイン提督ファルネーゼの侵攻によってアントワープは1582年ついに陥落。国際港湾都市としての命脈はこれをとどめに尽きることとなった。プランタンの印刷所はスペイン再支配後も稼働を続け、世代交替とともにその規模を拡大させていった。
この印刷所が再び世界史において重要な役目を演じたのがフランス革命前夜のこと。1751年から1780年にかけて、全35冊に編纂された『フランス百科全書』の出版と秘蔵が、フランス革命外史として記される。ヴォルテール、ルソー、モンテスキューといった出版首謀者たちの目的は、啓蒙を念頭に置いた「芸術および科学に関する完璧な研究書」の編纂にあった。明らかな反カトリックと反封建制の内容は、幾度となく発禁の対象となり、地下出版および秘蔵という運命を辿っている。革命の機運高まるフランス王室当局の目を避け、地下出版された発禁書群。それは革命を成就できなかったアントワープが、フランス革命へ馳せた願いだったのかもしれない。
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