
シャルル7世の愛妾で絶世の美女と謳われたアニエス・ソレルをモデルとしたフーケ作『聖母子像』。ⒸKoninklijk Museum voor Schone Kunsten Antwerpen

Another side of Antwerp
栄光と凋落の狭間で Vol.1
栄光と凋落の狭間で Vol.1
Photo Masahiro Goda Text Shun Kambe
Special Thanks Tourist Office for Flanders, Belgium
Special Thanks Tourist Office for Flanders, Belgium
アントワープの歴史。それは光と影で縁取られた物語に等しい。この港町が紡いできた陰と陽の強いコントラストは、今日まで続く運命でもある。桟橋に立ち目を閉じると聴こえてくる太古からの幻聴。潮風が運ぶいにしえのマドロスたちの唄は何を語るのか。
赤一色と青一色の天使たちに囲まれた、異常なまでに白い肌と乳房。額の中で佇む聖母は、いかがわしいまでの妖婉さを漂わせる。正確には『聖母子像』と呼ばれるこの作品は、15世紀に活躍したジャン・フーケによって描かれた。そして現在、展示されているのがアントワープ王立美術館である。フランドル絵画最大の画家、ルーベンスのコレクションで名高い同美術館であるが、なぜここの白眉がこの一点物のフーケなのか? その答えを探ることで、アントワープという街の意外な一面が見えてくる。