

個人海外投資に必要な国際税務の基礎知識
第17回
第17回
永峰 潤 公認会計士・税理
信託と税金 日米の考え方の相違(承前)
前回のまとめ
米国在住アメリカ人の父親が委託者兼受託者として有価証券を信託財産とするRevocable Trust(撤回可能信託)を米国で組成。収益受益権を有する者は日本永住者である息子である。彼は信託財産から上がる収益を毎年、日本で確定申告してきた。今般、税務署からこの信託の内容に問い合わせが来た。私どもの事務所は本件についてのアドバイスを求められている。受益者について補足すると父親の死亡で信託契約は終了し、あらかじめ指名されている後継受託者(Successor Trustee)によって信託財産は息子に帰属することになっている。
アドバイスにあたり、まず本件信託の性格を検討した(※1)。この信託はRevocable Trustとして組成されており信託行為には「委託者は自分の存命中はいつでも好きなときに他の者の同意なしに信託を撤回して信託財産を自分のもとに戻すことができる」旨の定めがある。
信託に対する米国の税制の扱い
米国税務では、委託者が受託者に信託財産を移転し、他の者がその受益権を取得したときは委託者に贈与税が課される(※2)。米国税務では、①贈与財産の金銭的価値以下で移転がなされ、かつ、②その移転により贈与者がその贈与財産に対する支配(Dominion and Control) を失ったとき、財産の贈与が完了し贈与税が課税されるとしている。本件においては法律上、信託財産の収益権は子供に移転しているとも言えるが、税務上は信託の実態から委託者が依然として実質的なコントロールを有していると判断し(※3)、収益受益権は存在せず、毎年の収益は子供への贈与として扱うことになる。ただし、そのことに伴う実際の納税は基礎控除の範囲内であれば生じない。
(※1)具体的には①息子が日本の信託法2条6項の受益者に該当するか、②息子は信託法92条各号の権利を有しているか、③残余財産受益者もしくは帰属権利者に相当する者は誰か(信託法182条)、④自己信託(信託法3条3号)の規定は米州法ではどうなっているのか、⑤信託の終了事由等々について検討することになる。
(※2)日本では贈与を受けた方に贈与税が課される。
(※3)米国税務ではGrantor Trustと呼ばれる。