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本裁決例の示すもの
 本裁決は二つの異なる内容を対象としたものである。(ア)外国通貨を他の外国通貨に変える場合、すなわち外国通貨という資産の購入取引と、(イ)外国通貨は同一のまま異なる資産(有価証券や不動産等)を購入する場合、すなわち外国通貨という資産の売却取引である。

 例えば(ア)について簡単な計算例で考えるとこういうことである。米ドル円相場が1ドル90円のときに1万ドルを購入し外貨預金として保有している個人が、この米ドルをスイスフランに替えることにした。現在のドル円相場は1ドル110円。フラン円相場は1フラン120円とすると、この人は110円×10,000÷120=9,167フランに交換でき、そこに所得が介在する余地はないと考えていた。

 残念ながら税務署の見方は次のようである。すなわち彼らは日本円⇒①⇒米ドル⇒②⇒日本円⇒③⇒スイスフランというとらえ方をする。米ドル⇒スイスフランとは考えない。この結果、当初に米ドルを購入した場合①の日本円90万円(=90円×1万ドル)と、スイスフランを購入するためにいったんドルを円に替えて②、手元に戻ってくる(と仮定して)日本円110万円(=110円×1万ドル)の差額20万円は外国為替差益として申告対象になります、と言っているわけである。そうして9,167フランを保有している場合の為替レートはフラン/円の120円で計算する(したがって税金分は納税者が別途支払わなければならない)。

利益と損失の非対称性と有価証券の譲渡所得
 為替差益が出た場合は雑所得として他の所得に合算して所得税が計算されるのに対して、為替差損が出た場合は雑所得とは相殺できるが、それ以外の所得とは相殺できないのである。もちろん所得が事業もしくは譲渡所得にかかわるものであれば、他の所得と通算は可能であるが、事例のように単純なる外国通貨の売買であるならば雑所得・雑損失扱いとされてしまう。

 この点(イ)の例も有価証券購入時に為替差損益を認識することは(ア)同様なのであるが、将来、この有価証券を売却して日本円を手にした場合は事情が少し異なってくる。ここも簡単な例で説明しよう。あなたは1株100ドルの米国会社Aの株式を1000株購入することにした。このときのドル円相場は1ドル90円だったので900万円を証券会社に支払った。その後、A株式は短期間に150ドルまで急騰したので、あなたは株式を売却して、そのまま円転して円で返却してもらうことにした。このときの為替相場は1ドル100円だった。そうすると(150ドル-100ドル)×1000株×100円/ドル=500万円が米国株式の譲渡益、100ドル/株×1000株×(100円/ドル-90円/ドル)=100万円が外国為替差益と計算される。譲渡益は株式の分離課税(20%フラット)、為替差益は総合課税(最高55%)となるようにも思えるが、この場合は為替差益も雑所得とカウントしないで譲渡益に含めて分離課税が適用されることになる(※4)。

 言い換えるなら外国通貨の売却損益は総合課税扱いされ、株式の売却損益は分離課税扱いとされる。この点、金融所得一体課税の趣旨からは乖かい離り しているようにも思える。

本稿のまとめ
☑外国通貨の売却と取得で外国通貨を売却すれば所得が発生する。
☑外国有価証券の売却により実現した所得は為替差損益相当分を含めて有価証券の譲渡による所得とされる。

(※4)国税庁ホームページ「外貨建取引による株式の譲渡による所得」(www.nta.go.jp/law/shitsugi/shotoku/02/02.htm


永峰 潤(ながみね・じゅん)
東京大学卒業後、ウォートン・スクールMBA。監査法人トーマツ、バンカーズ・トラスト銀行等を経て、現在は永峰・三島コンサルティング代表パートナー。
nagamine-mishima.jp
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