不漁対策で始まった、焼尻島の羊
そもそも焼尻島での羊の飼育が始まったのは昭和37年。かつてこの島はニシン漁で栄えたのだが、海流の変化により、まったく獲れなくなったという。そこで町はニシンに代わる産業としてめん羊飼養を考えたわけだ。滝川の畜産試験場から人を招き、めん羊基地づくりに乗り出した。ニシン番屋を羊舎に改造して、島での牧羊が始まった。
そして今、焼尻島のラムは幻といわれている。それは、世界でも最高級の羊肉として知られるプレ・サレとよく似た環境で育ち、肉の味も一流シェフからのお墨付きを得ているからだ。プレ・サレはフランス北西部サン・マロ湾のモン・サン・ミッシェル付近の牧場で育ったラムのこと。潮風をあびた牧草を食べて育ち、肉質が柔らかくて甘いという。
焼尻島でも極めて似た自然環境で羊を育てているため、誇りを込めて「プレ・サレ・焼尻」と名付けた。出荷量が年間150頭前後と少なく、その希少さが“伝説"に拍車をかけている。生後1年未満のラムは、脂肪が真白で酸化しておらず、ほのかな優しい香りがする。ここでは仔羊が離乳したのち、出荷までの間は乾燥牧草を与える。実は生草が、敬遠される“羊の臭み"のもとになるからだ。
どこまでも“自然"がイチバン
大井さんが飼育している食肉用の羊は、掛け合わせをしていない純血のサフォーク。羊飼いとしてのモッ
トーは「自然に育てる」である。焼尻島には羊の天敵となる蛇や狐がいないため、5月から10月中旬までは24 時間、羊舎に帰すことなく、島のあちこちに放牧する。
「雌雄一緒の牧草地に入れ、自然に交尾させます。自然に産ませて、自然に育てるのがイチバン。めん羊の様子をよく観察していれば、交尾しそうなカップルも、いつ交尾したかもわかりますよ」
と話す大井さん。さらに羊たちの“食事"にもこだわっている。フランスのプレ・サレ同様ミネラルをたっぷり含んだ草が、すぐに生え換わる再生力のある牧草地にすることが重要。羊たちに食べ尽くされても生え換わるのを待ち、いつも新鮮な生草を食べさせるのがいいそうだ。
また、冬期のための、乾燥牧草にする“よい草"をつくるため、笹藪だった場所を開墾して牧草地に。ここへは羊たちを入れずに、草を育てるだけにして、栄養のある牧草を確保している。
「こーい、こいこいこい」と声がする。何かと思えば、大井さんが放牧中の羊たちを集めている。この声を聞いた羊たちはお父さんを目がけて、一目散にやってくる。隣のうまい草のある場所へと連れていってくれるのを知っているのだ。この場面を目の当たりにして、羊の島では、人と羊が深い絆で結ばれて暮らしていることを実感する。
羊も人を見ているんですよ。だからこそ、気持ちを込めて世話をしています。悪いことをすれば叱るし、育児拒否する母羊を子育てするように教育する。羊は頭のいい動物だから、きちんとやるようになりますよ。大変ですけど(笑)」
焼尻めん羊牧場には、心強い助っ人が現れた。息子の公彦さんだ。生まれたときから、羊と一緒に暮らし、父の背中を見てきたからこそ、羊飼いになろうと決心したのであろう。これからは親子二人三脚でいく。
そして、羊舎暮らしが明ける5月、焼尻島では羊が親子で放牧される姿を見ることができる。きっと、この島ではいつまでも、羊と羊飼いの親子がいる光景が広がるのだろう。
焼尻めん羊牧場
北海道苫前郡羽幌町焼尻白浜256
TEL01648-2-3441 www.housyu.co.jp/farm




1 島は暑寒別天売焼尻国定公園に指定されている。
特にイチイ(オンコ) の原生林は、厳しい自然環境から希有な森林相を形成する。
2 焼尻めん羊牧場には、大きな二つの羊舎がある。
牧歌的な雰囲気を感じさせる赤い建物は、この島の自然環境にマッチしている。
3 焼尻島には、羽幌港からフェリーで1時間。
風が強いため、波が高くフェリーは欠航することもしばしば。
島へ渡り、1週間帰れなくなることもあるとか。
4 焼尻島では、現在もなお漁を行う。
この周辺で水揚げ量が多い甘エビのほか、ウニやアワビも豊富だ。
また、夕日がきれいなスポットとしても有名だ。
特にイチイ(オンコ) の原生林は、厳しい自然環境から希有な森林相を形成する。
2 焼尻めん羊牧場には、大きな二つの羊舎がある。
牧歌的な雰囲気を感じさせる赤い建物は、この島の自然環境にマッチしている。
3 焼尻島には、羽幌港からフェリーで1時間。
風が強いため、波が高くフェリーは欠航することもしばしば。
島へ渡り、1週間帰れなくなることもあるとか。
4 焼尻島では、現在もなお漁を行う。
この周辺で水揚げ量が多い甘エビのほか、ウニやアワビも豊富だ。
また、夕日がきれいなスポットとしても有名だ。