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個人海外投資に必要な国際税務の基礎知識
第9回

永峰 潤 公認会計士・税理士
金投資について

はじめに
 ここ数回やや専門的な話が続いたので今回はコロナ禍で価格高騰した金投資について書いてみたい。

金の価値
 ギリシャ神話ミダス王伝説に始まり、現在でもベネチア映画祭の金獅子賞(Leone d'Oro)やフランスワイン名産地のコートドール(Côte d’Or)、金閣寺、秀吉の黄金の茶室など、人々の金に対する特別の思い入れは古今東西共通である。金が錆びないことや埋蔵量が限られていることなどが価値の源泉と言われている。
 米国ドルのみが金と交換でき、その比率を固定化した金・ドル本位制度であるブレトンウッズ体制が確立され、わが国も1ドル360円の固定為替レートを長らく維持していた。その後、日本やドイツの大戦後の経済復興により相対的にドルの価値が下落し、1971年に米国大統領リチャード・ニクソンによる一方的なドルと金の交換停止、いわゆるニクソンショックにより固定相場制の破棄とその後の管理通貨制度により金と通貨との直接の結びつきは分断されたにもかかわらず、現在でも各国中央銀行は金の保有を続け
ている(※1)。

金の投資方法
 コロナ禍で金が高騰したのは記憶に新しいところである。2020年の1月に1g5500円だったものが10月末時点で6500円程度まで、年率にすると実に20%弱もの急騰を記録している。「有事の金」とよく言われるが今回のコロナ禍で世界的に金が選好される事態となっている。理由としては、世界規模の経済活動の縮小と、対抗策として取られた各国拡張財政策による各国通貨への信認低下。日米欧ゼロ金利政策による「金利のない」金との違いの消失などが挙げられているが、銅や株式も軒並み上昇しており、単なる金余りの投資先の一つとして選ばれたという説もある。
 個人が金に投資する代表的な方法としては(現物の)金地金の購入、金ETFが挙げられる(※2)。以下説明する。 
 金地金は地金商などを通じて購入するがその後の保管が大きな問題となる。持ってみると分かるが、わずか1㎏の金地金でもかなりの質量感があり、一定量の金地金を保有するとなると盗難防止のための頑丈な金庫や銀行の貸金庫に預けておく必要があろう。金地金を保有していれば必要な際にはすぐ換金できるようにも思えるが、第1次コロナ禍が猛威を振るった5、6月あたりで窓口を閉鎖していた地金商もあり、換金ができない事態が出来した。その後窓口は再開されたが、今後も何らかの天変地異が起こり直ちに手元資金が必要な際には案外てこずるかもしれない。
 海外のプライベートバンクでは金地金を銀行に預け、それを担保に資金を融通するサービスもあるが、(知りうる限り)日本の金融機関で同様のサービスを提供しているところはなさそうだ。
 金ETFとは金投資を証券市場で行えるようにした金融商品であり、金地金を運用対象とした上場投資信託(Exchange Traded Fund)である。東証の代表的な銘柄は純金上場信託(東証ティッカー1540)やSPDRゴールド・シェア(同1326)がある。前者はグラム・円単位での小口購入を可能にしたもの、後者はニューヨーク株式市場(NYSE)上場済みの世界最大の金ETFで東証でも購入可能となったものだ。これら二つは希望すれば金現物との交換も可能である。ともに投資信託のスキームを採用していることから、第5回で説明したように受託者が倒産してもそのリスクからは守られている。ただし金地金同様に天変地異や政治・経済上の非常事態が発生し取引不成立のために換金化できないリスクはある。
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