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永峰 潤(ながみね・じゅん)
東京大学文学部西洋史学科卒。ウォートン・スクールMBA、等松・青木監査法人、バンカーズ・トラスト銀行を経て、現在永峰・三島コンサルティング代表パートナー。nagamine-mishima.jp

(※1)通則法は日本の裁判所を羈束するものであり、海外の裁判所には効力がおよばない。日本人が米国不動産を保有して死亡した場合、通則法によれば日本法で判断すべきであるが、米国裁判所は通則法には縛られないので、(彼らの相続ルールたる相続分割主義に基づき)プロベートを実行する。(※2)質疑応答事例 照会要旨(国税庁)「外国人が死亡した場合における相続税の総額の計算は、日本の民法の規定による相続人及び相続分を基として計算することとしていますが、遺産が未分割のときは、日本の民法の規定による相続人及び相続分を基として計算するのか又は本国法の規定による相続人及び相続分を基として計算するのかいずれによりますか」。回答要旨「・・・・・被相続人の本国法の規定による相続人及び相続分を基として計算することになります」(www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/shitsugi/sozoku/11/02.htm)。(※3)相続税法第20条の2。

租税条約と外国税額控除
 関係する国同士でお互いに相続税が掛けられるような事態が予想される場合、その事態を予防し対処する仕組として租税条約と外国税額控除がある。以下、簡単に説明しよう。
 租税条約とは国際取引で互いの国が自国の課税権を主張した結果、同じ対象物に重複して課税することがないよう調整した国家間の合意文書のことである。つまり予防的に重複課税となることを回避させる役割を担っている。国際間の経済取引を円滑にすることが租税条約に最優先で求められたことから、所得税・法人税に関する租税条約はほぼ世界中の国と締結されてきたが、相続税はわが国において国際相続事案が僅少だったこともあり、実に1955年に米国との間で締結された日米相続・贈与租税条約以降、今に至るもどこの国とも作成・締結されていないのが実情である。
 すなわち予防的措置である租税条約が締結されていないため米国以外の国とは重複して相続税が課税される事態の出来は避けられない可能性が高い。そのような場合の対処方法として、わが国では国外所在の財産に外国の相続税が課された場合、わが国の相続税額から計算による一定額を限度として、外国で支払った相続税額をわが国の相続税から控除する外国税額控除制度を導入している(※3)。これによって理論上は二重課税を回避する方策を用意しているのだ。

本稿のまとめ
☑相続税では二重課税を予防し対処する方法として条約と外国税額控除がある。
☑条約の役目は二重課税となる課税範囲を回避することにある。
☑条約不備の補完として外国税額控除制度がある。
☑実務的には日米(相続税)租税条約しか締結されていない。
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