潮が香る若草を食んだノルマンディー地方の名羊
「アニョー・ド・レなら、ポイヤック、ピレネー、バスク、シストロン、ロゼール…。このあたりの羊は、ルイ14世の時代に、フランス種とイングランド種がかけあわさって誕生した種だそうです。私自身はバスク産のアニョー・ド・レのファン。品種もさることながら、実にすばらしい生産者が多くいるのです」“乳飲み"ではないが、フランスでもっとも有名なアニョーとして、“アニョー・ド・プレ・サレ"がある。直訳すると“塩の効いた草原の仔羊"だ。
フランス北西部はノルマンディー地方、世界遺産で有名なモン・サン=ミシェルを擁するマンシュ県は、世界最大級の潮汐が発生する場所。この地域の草原は、日々、寄せては引く波に洗われて、土壌には豊富な海のミネラルが含まれ、そこに生える若草にも、独特の香りがつく。潮が引いたときにこの若草を食んだ仔羊が(足の速い潮の満ち引きで、波にさらわれてしまう仔羊もいるのだそうだ)、“アニョー・ド・プレ・サレ"。乳飲み仔羊の繊細で淡白な甘みとは一味違う、うまみ成分が際立った唯一無二の風味を持った仔羊だ。「今、考えているアニョー料理は、ツブガイと海藻とのマリアージュ。プレ・サレのほんのり香るヨード香なら、この海の風味とベストマッチになるかもしれない」とヤニック。
ちなみに、モン・サン=ミシェルから北にのびるコタンタン半島は、アニョー・ド・プレ・サレメッカであると同時に、ショセイ島のオマール、砂地のニンジンなど、海の恵みが生み出す素晴らしい食材の宝庫。モン・サン=ミシェルからこの海岸線を北に50キロほど行ったところの小さな村、Blanville sur Merにある1つ星レストラン「ル・マスカレ(Le Mascaret)」では、まさにおひざ元で育ったアニョー・ド・プレ・サレの素晴らしい料理を満喫できる。このあたりを旅することがあれば、ぜひおすすめしたい美食スポットだ。