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アブラハムの宗教

 イスラム教にも犠大 イード牲祭がある。
 私事だが、カインが弟を殺した場所とされるカシオン山を望むダマスカスで、あるいはイランやトルコでケバブや羊乳チーズに舌鼓をうったときも、犠牲祭のことを自慢げに話すマラケシュの青年たちとモロッコを周遊したときも、イスラム教と羊を、宗教という糸でつないでみたことがなかったのは不明だった。『コーラン』において、イブラヒーム(=アブラハム)の子を「大いなる犠牲」で贖い、祝福をあたえたのは、唯一神アッラーである。「イブラヒームに平安あれ」と。
 ゆえに、雄羊は神への供物の最善のものと信じられてきた。
『コーラン』はまた、アブラハムの宗教は純粋の一神教であり、ムハンマドの説いたイスラムは、アブラハムの宗教の復活なのだと説いている。つまりムハンマドは、モーセやイエスなど預言者の流れのなかでも、アブラハムをダイレクトにうけつぐ「最高最後の預言者」なのである。
 ユダヤ教、キリスト教とともに、イスラム教が「アブラハムの宗教」と呼ばれるゆえんである。
 いま世界の人口の55%(宗教人口の63%)が3つの宗教の信者だという。羊を至高のものとする人々が世界に半分以上いるというわけだ。

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 大垣さなゑ
作家(日本文藝家協会会員)
1957年富山県生まれ。金沢大学卒。
歴史小説『花はいろ―小説とはずかたり』(まろうど社)で作家活動を開始。
著書に『夢のなかぞら―父 藤原定家と後鳥羽院』(東洋出版)、
『王の首―「曾我物語」幻想』(言海書房)、
『ひつじ―羊の民俗・文化・歴史』(まろうど社)などがある。
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